原子核の二重ベータ崩壊とニュートリノの質量 : 核構造の視点から(原子核物理の将来-核理論の課題-,各論シリーズ 第7回)
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概要
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原子核の二重ベータ崩壊には、ニュートリノの放出を伴う2ν崩壊モードとニュートリノが放出されない0ν崩壊モードとがある。特に後者はニュートリノの基本的性質を明らかにする上で重要な、電弱相互作用の標準理論では許されない軽粒子数非保存過程である。ニュートリノの質量を0ν崩壊寿命から求めるには核行列要素が不可欠である。しかし、核構造計算は長年に渡って2ν崩壊寿命の実験値を再現することが出来ず、このことは、0ν崩壊の核行列要素にも大きな不確定さが有り得ることを示唆していた。この問題は陽子・中性子準粒子RPA模型を用いた最近の核構造研究によって解決された。すなわち、核力はJ^π=1^+に結合した陽子・中性子対に対して特に強い引力であるため、基底状態は大きなスピン・アイソスピン相関を持ち、その結果β^+ガモフ・テラー遷移が強く抑制されるのである。しかし、多くの項の打ち消し合いで小さくなる2ν崩壊核行列要素を十分な精度で計算できるには至っていない。一方、0ν崩壊核行列要素は精度よく予言できることが解った。0ν崩壊に於いては、二核子間でニュートリノが交換されるため、大きな(角)運動量移行が伴う原子核遷移が助長され、核行列要素は基底状態相関の小さいJ^π≠1^+中間状態を経由する成分によって占めらる。ニュートリノの質量に対する制限|〈(m_v〉|<2.5eVは20%程度の精度で求められている。ただし、この量を他の方法で測られた質量と比較するには、ニュートリノの混合を考慮に入れなければならない。
- 素粒子論グループ 素粒子研究編集部の論文
- 1991-12-20