「韓国、台湾の経済開発における金融の役割」
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1)経済開発は、「工業化プロセス」の段階に応じた金融システムの発展によって支えられる。しかし、経済開発の初期段階では資金の需給バランスがとれない。需要が多く供給が追いつかない。資本蓄積資金の調達をどこから、いかにして行なうかが開発計画の成否を決定的にした。韓国や台湾は金融の国家統制を行いつつ資本蓄積資金の調達の多くを米国と日本に結びつけることによって解決し、調達した金融資源を有効配分し産業資本のコントロールを行った。産業金融と貿易金融を一体化させた国家主導型金融システムを構築し、獲得した外貨を更なる資本蓄積に投入することによって経済開発を進めた。経済開発の初期段階では外国援助を中心に、ついで外国借款や外国直接投資を導入した。東西冷戦下の国際緊張を上手く利用した面もあった。1970年代の世界的資金余剰期に遭遇した幸運もあった。ところが、金融システムの健全な発展という面では韓国、台湾はそれぞれに問題を残した。政府が強力な金融統制のなかで産業支配を継続したこと、即ち国家主導型金融システム(官治金融)の継続が制度劣化と機能の限界をもたらし始めた。金融機関の健全な発展の障害となり、企業の金融対応力の鈍化につながった。経済開発における金融の役割がこれほど大きかったことはなく、この原点は日本の1940年前後の戦時統制型経済運営に見られる。この開発手法は西欧型工業化を進めるためのアジア型ソフトウエアであった。韓国、台湾モデルの成功と教訓は近隣諸国の経済開発に大きな示唆を与えてくれる。2)韓国の経済開発は台湾に比べ10年遅れた。朝鮮戦争の後遺症と李承晩の政権担当能力の欠如が原因した。朴正煕時代になって経済開発計画を開始した韓国は「工業化プロセス」において財閥中心の大企業を育成しながら開発目標を達成した。巨額な資金調達が必要であったため金融機能は国家機能と一体化せざるを得なかった。この結果、金融機関も企業も国家依存度を深めた。企業の外部負債(借金)増大は国家の対外債務の増大につながった。自由化、国際化の流れのなかで危機意識が欠如した。改革を先送りした「失われた10年」のなかで、アジア通貨危機を迎えた。IMF管理を通じて抜本改革が実施され、金融改革を通じた産業構造改革は韓国の再生につながった。3)台湾も金融を政府の絶対的支配下においた。金融の二重構造のなかで、金融規制を厳格に行なった。本省人とその企業を支配する手段にもなったが、金融の安定は国家の安全保障と並ぶ台湾の基本政策であった。国際間の孤立が危機意識を一層増幅した。金融システム安定のために厳しい規制を継続し、資本流入に寛容であったが、資本流出に厳格であり続けた。とりわけ、短期外貨債務の動きには敏感であり、対外債務の拡大を抑えるべく厳しく対応した。1980年代後半以降の金融改革は金融機関の健全化となって現われ、1997年のアジア通貨危機を乗り越えた。
- 2006-07-14
著者
関連論文
- 「韓国、台湾の経済開発における金融の役割」
- 韓国、台湾の経済開発における工業化プロセス
- 「韓国、台湾の経済開発における金融の役割」
- 韓国、台湾における経済開発の初期条件
- 「朝鮮半島と関門海峡…下関と韓国の現代」より(東亜大学開学30周年記念公開講座 平成15年9月13日(土))
- 「日韓国交正常化40周年記念国際学術会議」 : 日韓関係と北東アジアの新しいビジョンを求めて