保護地域のジレンマ : 生物多様性と文化の相克
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概要
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本研究の目的は,生物多様性保全を目指した保護地域管理の実態を把握することにより,保護地域に居住する地域住民のおかれている立場を明らかにし,保護地域の資源をめぐる錯綜した自然と人間の関係を検証することにある。昨今,地球上の貴重な生物多様性を保全するために,国際的な議論が活発に行われるとともに,世界中で多くの保護地域が設定されている。保護地域に指定される地域は,地域住民が居住している地域と重なることが多く,保護地域設定の際に地域住民の権利を保証する必要がある。しかし,自然保護主義者や行政官は,保護地域設定によって生物多様性保全を実現し,保護地域の設定や,保護地域でのエコ・ツーリズムによって,外貨獲得に成功したものの,保護地域は,地域住民への経済的な利益をほとんどもたらさず,むしろ,彼らの慣習的な生活の脅威になることが多かった。このような,ステークホルダーによる自然への異なる接し方が,生物多様性と文化の保全をめぐっての対立構造を生じさせる原因となった。今後は,地方にも保護地域管理の責任の一部を委譲すること,NGOなどの第三者の協力を得つつ,地域住民が,自立した組織として政府と直接交渉し,政府と地域住民の両者ともに利益がもたらされるような管理システムを構築していくことが必要である。
- 日本森林学会の論文
- 2005-06-01