袈裟の素材 : 糞掃衣と道宣の禁絹
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概要
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仏陀をはじめ弟子達が着用している三衣は,拾った布や墓地で得たものを洗い,縫い,所謂,糞掃衣に仕立てて着用していた,そして糞掃衣に使用できる布の規則では生地の素材を問わず,不用な布ならば袈裟に利用することが出来る.しかしながら,同時に律蔵の規定には在家者からの布の布施を受け,それらの着用をも認めている.衣の布施は出家者を衣の面から支え,在家者にとっては功徳を積む機会となる.ところで糞掃衣ならば素材は問わないというインドの規則は,中国に入り,道宣の解釈は大いに相違して来る.道宣は,衣を作る素材として絹は不適切であると主張する.何故なら絹を生産するには多くの蚕を殺ねばならぬからと言う.慈悲が強調される大乗仏教にあって,一切の絹製品の着用を禁止した.しかし,義浄は道宣とは異なった立場をとる.即ち食の面でも生き物を害しており,在家信者から絹製品を受けることを許していると主張する.この道宣の律の解釈・主張は,日本では広く受け入れられてきた.江戸時代の戒律復興運動において,道宣の絹に対する見解が再び問題となり,論議を引き起こした.大部分の僧侶は,絹の袈裟を着用を拒否し,自分達が律の規則を厳格に守っていることを目に見える形で示した.何故江戸時代には糞掃衣の規定よりも絹を禁止に重点がおかれたのか?本論は上記の如く,袈裟の素材に焦点を当て,考察を進めたいと思う.
- 2007-03-25