糸満漁師、海を読む : 生活の文脈における「人々の知識」
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概要
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本論文では、沖縄県糸満の漁師、上原佑強氏による「海を読む」知識をとりあげる。このような自然と深く関わる生活を送る人々の知識(仮に「人々の知識」と呼ぶ)は、これまで科学的知識との比較において語られることが多かった。そのことによって、これらの知識は、あたかも科学的知識やテクノロジーと隔絶された知識であるかのようにとらえられると同時に、しばしば「自然との共生的な関係性」を体現する知識として理想化されてきた。本研究では「人々の知識」を知識の保有者の生活の文脈においてとらえることで、「科学的知識一伝統的知識」という二項対立的な枠組みを批判的に乗り越えることを第一の目的とする。さらに「海を読む」知識と漁実践の分析から、知識の保有者にとっての「自然(海)」がいがなるものかを具体的に描き出し、「自然との共生的関係性」という外部社会の理念に収まりきらない海と人の関係性を浮き彫りにすることを第二の目的とする。本研究では、「漁場」「風」「潮」という三点から上原氏の「海を読む」知識を描き出すとともに、知識の構築過程に科学的知識やテクノロジーがどのような影響を及ぼしてきたかを分析する。さらに、上原氏の漁実践において「海を読む」知識がいかに応用されているかを漁業日誌、水揚げデータおよび漁の観察をもとに分析する。以上の検討より、「海を読む」知識の構築においては、科学的知識やテクノロジーが深く影響を及ぼしており、それらが提示する自然の新しいヴィジョンや知見によって「海を読む」知識が再生されていることが明らかにされる。さらに、海の「予測不可能性」という視点から「海を読む」漁と「海を読まない」漁それぞれがとり結ぶ海との関係性の特徴が分析され、糸満における海と人の関係性の転換が示唆される。
- 日本文化人類学会の論文
- 2004-03-31