現代化とシャマニズムの実践にみる身体 : ラダッキとサハの事例より(<特集>文化のリソースとしての身体)
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概要
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シャマニズムは、シャマンの身体表現(perfomance)を社会・文化的文脈において妥当なものとする固有の世界観、病因論を前提として成り立つ宗教実践とすれば、それゆえにイデオロギーや技術の現代化、グローバル化の過程で大きな転換を逃れられないといえる。本稿は、西チベットのラダッキおよび東シベリアのサハの人々を例に、現代化、グローバル化のなかでシャマニズムがシャマンの身体表現という点からどのような変容を経るのかを分析し、現代のシャマニズム実践における身体について考察することを目的とする。ラダッキとサハは、シャマニズムの実践、経験した現代化という意味で対照的な人々である。前者は地域開発と観光化をとおした日常生活の現代化、後者はロシア化、ソビエト化による現代化を経てシャマニズムの復興を進めてきた。ラダッキシャマンの身体表現においては、その構造をはじめ身体技法には根本的な変容はみられない。しかし、シャマニズムが地域的のみならず、「世界的」な実践となっていくとともに、シャマンの異言は患者の文化的背景に応じてより一般的、非文化的文脈で解釈されていた。一方、現代のサハでは、自然との共生の思想を体現するといった新たな世界観の文脈でのシャマニズムの復興が認められる。これとともに、シャマンは伝統的な世界観を少なからず保っているとはいえ、かつて一般的であった「下の世界」への魂の旅の表出という身体技法はもはやみられない。彼らの身体表現には、部分的に伝統的な身体技法を活用しながらもニューエイジ的な、他文化要素が取り入れられている。文化の現代化あるいはグローバル化という潮流のなかで、シャマニズムには病因論の脱文化化あるいは文化の混淆といった現象が起きているといえるが、その一方で、かつでの「魂の旅」「憑依」という類型化のなかで軽視されてきた普遍的本有的な身体技法の再活用もまた認められる。
- 2005-09-30
著者
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