家を建てる女たち : メキシコ・ワステカ農村における社会変化とジェンダー
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概要
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メキシコ・イダルゴ州ワステカのナワ先住民村サンタクルスでは、1980年代以降、自給用作物栽培を中心とした農業が衰退し、国内都市への移民を含めた多様な経済活動によって維持されるようになってきた。この村では、かつて木材・竹・泥といった身近な自然素材で作られていた家は、近代化にともなってコンクリート・ブロック製に変わり、大型化して、建設には多額の資金を要するものとなった。家は夫や父親が家族のために建てるものだったが、近年では妻が夫とともに都市で賃金労働に就いたり、都市で働く未婚の娘が両親のために送金したりして建設資金をまかなうケースが多くなってきた。その場合、妻は「夫を助ける」ために都市で働いたといい、娘は「親を助ける」ために送金したという。妻が子どもを村に残して都市で働くことは周囲から非難されることもあるが、家造りに資金を出した妻は夫との関係を変化させている。一方、娘が資金を出した場合、娘には建てた家に住む権利があることが意識され、離婚後の居住の保障や子育てへの協力などのかたちで、結婚したのちも親と娘の関係が維持されるようになった。本稿では、近年メキシコ農村においてみられるようになった、女性が家を建てるという新しい現象に焦点を当て、社会変化が妻や娘としての社会規範とどう関連し、同時に夫婦間、親子間にどのように新しい関係が構築されているか、そのプロセスを明らかにする。そしてジェンダーの研究視角を親族としての関係のあり方に向けることの有効性を提示したい。
- 2004-06-30