アーキテクチャと企業間分業構造 : モジュラリティの罠をどう越えるか
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本稿は、「ビジネス・アーキテクチャ」と、組織のもつ「知識」の適合関係という視点から、企業間分業構造の変化の説明を試み、そのなかで特に重要な問題となる「モジュラリティの罠」について分析を深めたものである。ビジネス・アーキテクチャとは産業の構造を捉える視点で、生産や販売などの個別事業活動を構成要素とし、その相互関係に注目するものである。アーキテクテャはインテグラル・モジュラーの2タイプに分けられ、また企業の知識のタイプも、それぞれのアーキテクチャに対応した2タイプに分類できる。ビジネス・アーキテクチャは産業競争の中で変化するため、以前のアーキテクチャに適合していた企業は競争力を失う可能性がある。これをモジュラリティ(インテグリティ)の罠と呼ぶ。この「罠」が生じる結果、アーキテクチャの変化は企業間分業構造を著しく変化させる可能性がある。そこで本稿は、光ディスク記録メディア産業の事例分析から、ビジネス・アーキテクテャの変化が企業間分業構造の変化を引き起こしていることを分析した。同産業ではもともとインテグラル・アーキテクテャのもとで垂直統合型企業によって事業活動が行われていたが、1990年代後半にはモジュラー化が進み、これに対応した活動特化企業が業績を伸ばした。しかし、続く2000年頃からはインテグラル化が進行する。これを受けて成長したのは、もともと垂直統合していた企業であった。彼らは既存の企業間分業構造のもとで、垂直的な連携モデルを構築し、インテグラル化に対応したのである。本事例からはモジュラリティの罠の本質が明らかにされる。旧来の議論ではモジュラリティの罠を越えるためには垂直統合型の事業構造が必要であるとしていたが、本事例では特化企業の垂直的連携でインテグラル化に対応していた。この点に着目すると、モジュラリティの罠は事業範囲の問題ではなく、その背後にある「知識」が本質的な問題であると考えられる。活動特化したとしても、複数活動の調整のための知識を組織内に残していれば、モジュラリティの罠を越えることができるのである。従って、ビジネス・アーキテクテャの変化に応じて事業範囲は柔軟に変更する必要があるが、事業を絞り込んだとしても安易に知識としては放棄するべきではないことが主張される。
- 国際ビジネス研究学会の論文
- 2006-09-30