外来語「言い換え」提案に関する一考察
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概要
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近年、定着度の低い外来語を日本語に置き換えようという試みが増えている。一般の人々の言語使用に対する注意を引くようになったのが、「外来語」委員会が2002年に新聞紙上で行った、いくつかの分かりにくい外来語を日本語に置き換える試みである。一方、一般の人々への注意の呼びかけとは別に、2002年には広報誌の中で用いられる外来語の使用に関する指針が国語審議会から出されている。このような公・一般の人々へ、外来語を多く使うことに注意を呼びかける機関は、年齢によって外来語の理解に差があるということを前提の一つとして、メッセージの受け手主体のコミュニケーションを促している。当プロジェクトでは、特に2002年発行の広報誌の中で用いられている外来語を調査した。まず、広報紙における外来語の使用基準を発表した2つの機関の試みを先行研究として取り上げた。一つ目は神奈川県川崎市が、市の広報誌中の外来語への市民の理解度や意識をもとにして作成した川崎市独自の外来語使用基準である。二つ目は川崎市の企画をその資料にしながら全国の広報紙における外来語使用基準を定めた国語審議会による答申である。今回調査した2002年の広報誌においては既にその外来語使用基準は2000年に審議会によって定められている。その指針がどのくらい反映されているかを調べた。先行研究にある外来語使用の適正化を目的とする機関は、読者が高年齢になるほど外来語への理解の落差が出るということを論議の前提としている。高年齢層が占める割合の高い市町村から発行される広報誌は、高年齢者に配慮した外来語使用を行っているのだろうか。また、外来語言い換え問題の前提となっている高齢者の理解の問題は実際に存在しているのだろうか。そこで香川県において高年齢人口の割合の異なる1市2町を選び、外来語使用基準の反映の有無、高齢者に対する配慮が外来語使用の数値に反映されているかどうかを調べた。次に高齢者が実際に外来語に対する理解度が低いかどうか、香川県在住の男女にアンケートを取った。アンケートに用いた外来語は、外来語委員会がその言い換えの対象とした言葉、すでにマスコミで日常的に用いられ、一般の生活にも溶け込んでいると思われるものを選択した。そして言葉と意味が正確に結びついているかを調べるため、単語と文脈から外来語の理解度を測った。次に外来語と日本語(和語・漢語)のどちらが分かりやすいと感じるかの意識調査を行った。当プロジェクトは、「外来語」委員会が繰り返し述べているのと同様に、外来語を日本語言い換え候補にすべて直さなければならないという強迫観念をサポートするものではない。また外来語の多用が生み出しうるコミュニケーション・ギャップを放置することを奨励するものでもない。この試みは、どのくらいコミュニケーション・ギャップが生まれうる可能性が一般の人々の間に存在しうるのかを図る暫定的な調査である。2004年現在も、「外来語」委員会は外来語を日本語に言い換える試みを通して、日本語使用に対する意識を呼びかけている。そして一般の人々の間で、従来にない活発な議論の高まりが確認されている。この人々の言語使用への"気づき"こそ、今回の議論の前提となったコミュニケーション・ギャップを埋めるための最高の近道といえるのではないだろうか。
- 2004-03-10