I-1 成果主義の二極性 : 「成果主義に関するアンケート」の再分析(Iセッション【大学院生セッション】)
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概要
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成果主義が上手く機能するためには,様々な補完的施策が必要であるという,いわゆる機能要件に関して多くの研究がなされている。しかし,こうした一連の研究は,成果主義と特定施策に議論が集中しており,成果主義の下でトータルな人事システムの違いが,HR施策の効果に差異をもたらすことを論じた研究は少ない。本発表では,企業が採用しているHR施策によって成果主義にも様々な「型」が存在しており,その「型」によっては,既存研究で言われている機能要件が必ずしも作用しない場合があるのではないか,という問題意識から既存データを用いた統計分析を行った。統計分析の結果,満足度のうちでも「評価・配置に関する公正性」が成果主義にとって重要であることが示される。さらに,評価・配置に関する公正性を高めるためには,人事システムの中でも評価施策と能力開発施策が必要であることが確認された。そこで評価施策と能力開発施策の運用程度の高低によって,4つの人事システムを想定し,それぞれのタイプにどのような賃金・処遇システムが有効であるかを検討した。検討の結果,賃金制度は評価・配置の公正性に一貫した影響を与えることはないが,2つの企業類型(人材育成型と市場調達型)で,昇進・昇格施策が,評価と配置の公正性に影響を及ぼすことが判明した。人材育成型と市場調達型に類似した結果が見られた解釈の1つとして,成果主義の2極性が考えられる。つまり,企業内の人材育成度をヨコ軸に,個人間の処遇・賃金格差や個人の毎年の賃金を変動させる成果主義的な処遇制度の有効度をタテ軸に考えると,成果主義企業はU字型にプロットされると推察される。人材育成型企業では,評価制度も機能しているため納得性が高く,処遇に差をつけることが従業員に受容されているからである。対して,市場調達型企業では,内部で人材を育成することに注力せず労働市場から人材を調達する形態のため,賃金や処遇に差をつけることが,優秀な労働者を集めるために合理的だからである。以上の分析からこれまでの先行研究で行われていた成果主義の機能要件は,各企業が行っているトータルな人事システムの有り様によって処遇格差をつける効果が異なる。そのためある特定のHR施策と成果主義との関連性だけを議論するのではなく,その企業が行っている人事システムの組み合わせから機能要件に関する議論を俯瞰する必要がある。これまでの成果主義の機能要件を成果主義の「型」を意識しながら,機能要件の議論を蓄積していくことが望まれる。
- 経営行動科学学会の論文
- 2006-11-11
著者
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