母体糖尿病が胎児褐色脂肪組織熱産生に及ぼす影響とその機構について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
母体の糖尿病状態が胎児褐色脂肪組織熱産生に及ぼす影響とその機序を明らかにするために,母体に糖尿病状態を作製し胎児褐色脂肪組織の熱産生能を検討した。すなわち妊娠14日目のNew Zealand White Rabbitにalloxan(60mg/Kg)を静注し糖尿病状態を作製した。妊娠28日目に子宮切開により胎児を摘出し,胎児血糖値およびinsulin値を測定した。胎児褐色脂肪細胞の熱産生能として最大刺激酸素消費量をnorepinephrineおよびdibutyryl cyclicAMPを添加して測定した。また胎児褐色脂肪組織ミトコンドリア機能として外膜酵素蛋白であるacyl CoA synthetase活性とmonoamine oxidase活性,内膜酵素蛋白であるcytocnrome c oxidase活性とthermogenin量を測定した。母体の血糖値により,100mg/dl以下のものを対照群(C),100-200mg/dlのものを軽症糖尿病群(M),200mg/dl以上のものを重症糖尿病群(S)とした。その結果として胎児の血糖値は軽症群で133±13.5mg/dl(M),重症群で321±37mg/dl(S)と対照群の74.5±2.5mg/dl(C)と比べ有意に(p<0.001)上昇した。Insulin値は重症群で21±0.4mU/ml(S)と対照群の17±3.5mU/ml(C)と比べ有意に(p<0.05)上昇した。褐色脂肪細胞における最大刺激酸素消費量は,norepinephrine刺激時に軽症群では807±60μl O_2/10^6 cells/hr (M)と対照群の482±32μl O_2/10^6 cells/hr(C)に比べ有意に上昇したが(p<0.005),重症群では248±53μl O_2/10^6 cells/hr (s)と対照群482±32μl O_2/10^6 cells/hr (C)に比べ有意に低下した(p<0.005)。ミトコンドリア機能を検討すると,外膜に存在するacyl CoA synthetaseの活性は重症群で1143±194 nmol/mg prot./10min.(S)と対照群の498±247nmol/mg prot./10min.(C)に比べ有意に上昇した(p<0.05)。Monoamine oxidase活性は3群間に有意差なかった。ミトコンドリア内膜に存在するcytochrome c oxidaseの活性は軽症群では対照群と同様の値を示したが,重症群では0.211±0.006μmol/L substrate oxidized/min./mg DNA(S)と対照群の0.363±0.011μmol/L substrate oxidized/min./mg DNA(C)に比べ有意に低下した。同じく内膜に存在するthermogenin量は軽症群では0.83nmol/mg prot. (M)と対照群の0.52nmol/mg prot.(C)に比べ有意に増加したが,重症群では0.19nmol/mg prot.(S)と対照群の0.52nmol/mg prot.(C)に比べ有意に低下した。以上より,母体の糖尿病コントロール不良状態は胎児褐色脂肪細胞のミトコンドリア内膜に障害を起こし,熱産生系機能の低下をもたらす可能性が示唆された。
- 1991-12-01