Werner症候群にみられる脂質代謝異常の発現機序およびその動脈硬化早期進展に占める意義について
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概要
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Werner症候群は代表的な遺伝性の早老症候群の一つであり,種々の老化徴侯を比較的若年期より呈することが知られている。そこで本研究においては,本症候群の主要な早期老化徴侯の一つであり,また主要死因の一つでもある動脈硬化早期進展の機序を明らかにするため,本症候群にみられる脂質代謝異常の発現機序を解明し,その動脈硬化促進因子としての意義を検討した。その結果,(1)当科で経験した本症候群10症例は全例とも,動脈硬化の危険因子(脂質代謝異常10例,糖尿病6例,高血圧症2例,高尿酸血症2例)を最低一項目以上合併しており,臨床的指標でとらえた動脈硬化症も進行していると考えられた。(2)特に合併率が高率(100%)だった脂質代謝異常の内訳は,高コレステロール血症が7例,高中性脂肪血症が8例,血清高比重リポタンパク(HDL)の異常低値が4例,midbandの存在が5例であった。(3)本症候群10症例とも脂肪肝を合併していたことから,高中性脂肪血症は肝での中性脂肪合成の亢進によるものと考えられた。そして肝での中性脂肪合成の亢進は,合併する耐糖能異常(9例),高インスリン血症(8例)等の関与によるものと考えられた。(4)高コレステロール血症を合併した7症例中6例にはコレステロール沈着に由来すると思われるアキレス腱肥厚が認められ,このうち5例の末梢血リンパ球低比重リポタンパク(LDL)受容体活性は対照群の約1/2の値を示した。さらに3例には高コレステロール血症の家族歴も認められた。すなわちこれら症例は家族性高コレステロール血症(FH)に極めて類似した病態を示しており,高コレステロール血症はFH同様LDL異化障害によるものと考えられた。(5)低HDL血症及びmidbandの存在は,triglyceride-richリポタンパクを含む中間型リポタンパク代謝異常によるものと考えられた。(6)アキレス腱肥厚率の検討から,本症候群では組織へのコレステロール沈着が亢進している可能性が示唆された。そして末梢血単球由来マクロファージによるacetylated LDL代謝の検討から,本症候群のマクロファージは,変性LDL由来のコレステロールエステルの細胞内蓄積が亢進しており,このようなマクロファージの機能亢進が,泡沫細胞形成促進及び組織へのコレステロール沈着亢進をもたらしていると考えられた。以上のように,本症候群には極めて多彩な脂質代謝異常が高頻度に存在することが明らかとなった。これらの脂質代謝異常が,本症候群にみられる動脈硬化早期進展の重要な促進因子であると考えられる。
- 1989-12-25
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