機能異常リポ蛋白リパーゼ(LPL)に関する研究
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概要
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リポ蛋白リパーゼ(LPL)はカイロミクロンや超低比重リポ蛋白(VLDL)中の中性脂肪の水解反応を担う酵素である。その特徴として酵素であるLPLは水に溶けているが基質は水に不溶であることがあげられる。このような場合。反応を律速する因子としては酵素量だけでなく基質の界面面積や基質表面に対する吸着力などが問題になる。LPLの機能異常がその成因となる高カイロミクロン血症の成因を解明することは本酵素の機能を解析するうえで重要な手がかりを与えてくれると思われる。そこで,高カイロミクロン血症を呈し膵炎に反復罹患していた患者のLPLの機能を解析しそれに基づく治療法を確立し,その遺伝子解析を行いLPL酵素蛋白の変異部を明らかにした。本患者のへパリン静往後血漿(PHP)中にはLPL酵素蛋白が存在した。このLPLは水溶性基質であるtributyrinを水解するが,脂質界面を形成するTriton X-100にて乳化したtriolein(以下Triton X-100-triolein)に対して水解能を示さず超低比重リポ蛋白(VLDL)との結合も見られなかったことから脂質界面認識に異常を有すると考えられた。リゾリン脂質を用いてtrioleinを乳化し基質を作成したところ,患者LPLは結合し水解した。また中鎖中性脂肪(MCT)を用いてtrioleinを乳化し作成した基質にも水解活性を示した。本患者にMCTを経口投与しガスクロマトグラフィーを用いて脂肪酸分析を行った結果,投与されたMCTはカイロミクロンやVLDL中に取込まれていることが判明した。このとき血清中性脂肪値は著明に低下した。その機序として投与されたMCTの一部が基質のリポ蛋白中にとりこまれ,患者LPLによる中性脂肪の水解を促進する可能性が考えられた。本患者の末梢血リンパ球より採取したDNAを分析した結果,LPLの遺伝子の1595番目の塩基にはシトシンからグアニンへの変異がへテロ型に存在することが判明した。この結果,LPLを構成する448個のアミノ酸のうち447番目のセリンに相当するコドンが停止コドンに置換されることが示唆された。本患者の脂肪組織より得たLPLcDNAにも,同様の変異が確認された。本変異を有するLPLcDNAを発現させると,tributyrinに対する水解活性は正常に存在したがTriton X-100-trioleinに対する水解活性は著明に低下していた。またリゾリン脂質や中鎖中性脂肪のひとつであるtricaprinにて乳化したtrioleinに対して正常なLPLと同等の水解活性を示した。したがって,本変異が患者LPLにみられた脂質界面認識異常に関与することが示唆された。
- 1993-04-01
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