分子生物学の発展過程の分析 : 事例分析を通して
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概要
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20世紀中葉にDNAの二重らせん構造の発見がなされて以来,著しい発展を遂げている分子生物学の発展過程が,分子生物学の専門誌J. Mol. Biol.掲載論文数の推移と研究課題の変遷をもとに検討された。さらに分子生物学を応用分野へ飛躍的に発展ならしめたDNA組換え技術を発見事例として取り上げ,この発見がいかなる過去の事実にもとづいてなされたかの源流分析,また発見からその知識が基礎分野,応用分野にどのように伝播されていったか,などの分析を論文の被引用数と特許件数の推移を通して行った。最後に,得られた知見とパラダイム論との対比から,科学発展の本質的なメカニズムに迫ろうと試みた。J. Mol. Biol.の掲載論文の分析から分子生物学の進歩は単調な推移ではなく,1960〜1974年と1990年以降の2つの活動期とその間に停滞期が存在すること,この停滞期を通してDNA科学からタンパク質科学へと研究課題が移行していることが分かった。DNA組換え技術は第1活動期の最盛期に誕生し,過去に発見された3つの要素から構成されていること,この発見に至る過去の様々な引用論文の系統的な流れを具体的に示し,検討した。これらのことから,過去のいくつかの断片的な知識や技術の組み合わせと独創的な概念の創出から新たな発見が生まれること,発見は決して孤立した個別的なものではなく,過去の知識や技術と密接に繋がりを持って誕生・増殖するタイミングが存在することを,事例を通して示した。このDNA組換え技術は直ちに基礎分野から応用分野へと急速に伝播し,今も拡大し続け,社会に受け入れられつつあることが明らかになった。二重らせん構造理論のパラダイム誕生とそのパラダイムに基づいた通常科学としての展開過程は,パラダイム論のモデルで基本的に解釈され得るが,その通常科学における進歩のメカニズムが新たに明らかになった。
- 2006-12-08