十勝畑作農村地域における日常諸施設の利用傾向
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概要
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i)日常の諸施設利用にみられる地域的拡がりは,それぞれの施設によって異なる。先ず利用圏域が最小の拡がりを示す例として理髪店・美容院・購入頻度週・月単位の調味料・魚・学用品などの購買関係施設および農業関係施設のほとんどが挙げられる。これらはいずれも施設までの所要時間20〜30分・3〜4kmを境にして利用率は50%以下を示す。その圏域は部落中心または副市街地的な単位で集落全体に均等に分布する。ii)更にその圏域がこれらを上廻る拡がりを示す例として病気の場合の通院,高校・和洋裁学校などへの通学,映画観賞の場合,購入頻度月1〜年5・6回程度の下着・本雑誌・履物・化粧品などの購買関係施設の利用が挙げられよう。いずれも施設の選択性がある程度重要視きれる性格のもので所要時間40〜50分程度を越えるとその利用率は50%以下を示す。その圏域は中心市街地的な単位のまとまりを示すが,地域中心都市への依存もみられる。一般に農村地域においては,日々の通学などにみられる地域的拡がりはまた映画観賞や通院の場合の施設利用の範囲であるともいえよう。iii)更に大きな地域的拡がりを示す例として病気の入院の場合,購入頻度年1回〜数年に1回程度の時計・晴着などの購買施設が挙げられる。いずれも利用の頻度は低く施設または品物の選択性が最も重要視きれる傾向のもので,地域中心都市への依存度が顕著で概ね所要時間1時間・30km程度を境にして利用率は50%以下を示すようになるが,2時間を越えても10〜20%程度の利用が認められる。その他これらと同じ傾向を示すものとして祭・盆・正月などの祝祭日に帯広に出かけるものの地域的拡がりが挙げられる。iv)全体的にみると現状での主要な交通方法がバスから汽車にとって代る30km・所要時間1時間前後を境にして地域中心都市に対する利用率は50%以下となり,町村の中心市街地または近くのより大規模な市街地により多く依存する傾向が知られる。また地域的にみて以上の諸施設の利用に共通して指摘される一般的傾向は,それらの利用圏域が同心円的なものではなく,より充実した施設をもった大規模な市街地の反対方向に大きく偏った拡がりを示すことである。v)通院・通学・映画観賞など数ケの日常の主要な行為で代表きれた諸施設の利用にみられる人の動きについて,とくに所要時間と利用率との関係から例えば農村地域においては,利用対象となる施設までの所要時間が30分以内であれば,病気の通院・入院の場合などでは80%以上の高い利用率を期待し得ることが知られる。また購入頻度月単位〜年数回程度の履物・薬・本雑誌などでは所要時間30分以内では50%以上の利用率,1時間以内であれば購入頻度年1回〜数年に1回程度の時計・晴着でも50%以上の利用率を期待し得ることが知られよう。逆に例えばこれらの品目について80%以上の高い用利率を期待するためには,これらの関係施設が少なくとも所要時間20分程度の範囲内に立地しなければならないことが推定きれよう。vi)次に施設までの所要時間を尺度として利用者側からの主観的な感じ方をみる。先ず医療関係では助産婦の利用および出産入院の場合に妊婦が通ったり,出産時に急を要する点などを反映してか施設までの所要時間の増大と共に不便を感ずる傾向が大きくあらわれ,所要時間30分を越えると利用者の50%以上が不便を感じている。次いで通院の場合が挙げられる。これは小中学校への通学の場合と類似した傾向を示し,いずれも所要時間30〜35分を越えると50%以上が不便または遠いと感じている。このように所要時間別にみて利用者の50%以上が不便を感ずる限界は例えば散髪・パーマおよび入院の場合では40分,農業関係の施設では40〜45分,郵便局の利用および映画観賞の場合などでは50分〜1時間となっている。vii)集落内において対地別に身近かに立地が要望される施設についての調査結果をみると,一般に部落中心に対しては日常生活に密接した施設への要求が大きく現われている。すなわち,医院・診療所に対する希望が最も多く,次いで公衆電話・保育所・季節保育所・助産婦・小中学校などが挙げられている。全体的にみると部落中心的な単位で少なくとも診療所もしくは医師の定期出張診療のみられる健康相談所的な施設・季節保育所などの設置が望まれよう。副市街地に対しては,部落で顕著にみられた医院・診療所・公衆電話への要望は比較的少なくこれに代って病院と共に歯科医院に対する希望が大きくみられる。現在,医院・診療所の立地傾向に較べ歯科医院の立地は比較的少なく,連たん300戸以上にならなければ平均1程度の立地がみられないが,利用する側からは少なくとも副市街地単位で,この施設に対する要望が大きく現われている。その他役場出張所・映画館に対する希望が顕著である。中心市街地に対しては部落などにみられた施設への要望は比較的少なく,施設の充実に伴って図書館・公民館・高校などに対する希望も多く,幼稚園などへの要求もみられる。viii)以上の諸行為にみられる一般的傾向は農村地域における日常諸施設の配置に際して,その段階的構成を示唆するものであろう。更に日常の主要な施設個々についてある割合以上の高い利用率を期待するためには少なくとも施設よりの最大の拡がりをどの程度にすべきか,施設または所要時間と共に低減する一般的傾向の中にこれからの施設配置計画上の一つの基準を見出し得るであろう。また主要な日常の諸行為について所要時間別にみた主観的な感じ方などから例えば利用者の5割以上が不便を感じていない限界を利周者側からみた計画上の1指標としてとり挙げることもできよう。一般に時間を尺度としてみるとき農村地域の日常生活においては,施設に密接なつながりをもち近親感を示す限界が30分,更に購買に限らず通勤・通学・医療・慰楽などの目的の場合でも生理的な因子をも含めて充分な余裕をもった日帰り行程の限界は1時間と見做される。現在では徒歩・自転車利用30分で到達し得る範囲は3km程度であるが,交通手段め発達と共に利用機関の頻度的制約が解消され,自家用車・バスなどが徒歩・自転車に代るようになれば,同じ所要時間でも利用者側からみた望ましい圏域は空間的により拡大されようし,これに伴って農村地域でも医療・購買などに限らず慰楽的な面でも望ましい圏内により充実した施設の立地が可能となろう。集落形態的な立場からは完全な散居型式よりも,少なくともある単位で段階的なまとまりをもって住居群が構成きれる場合に公共施設は経営上より効果的に配置きれ,利用者の立場からみて各戸より各施設へのつながりもより能率的にまとめることが可能となろう。おわりに本研究を進めるに当って絶えず御指導をいただいた横山尊雄教授に深く感謝すると共に,この研究は北海道科学研究費の補助を受けたものであり,北海道大学新制学位学論文の一部をなすものであしることを付記します。
著者
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