19世紀ベトナム紅河デルタ沿岸低地における干拓過程 : タイビン省ティエンハイ県の事例から
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概要
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紅河デルタはメコンデルタとならぶベトナムの二大穀倉地帯となっている沖積デルタで,農業活動が中心となっている。紅河デルタは人口密度がきわめて稠密で多くの過剰人口をかかえている。その沿岸部のニンビン省,ナムディン省,タイビン省などは海面干拓の適地となっている。これらの地域では古くから干拓が過剰人口問題を解決するひとつの手段となってきた。本論文の目的は,1)19世紀グエン朝の土地政策を概観し,2)干拓計画やその技術を評価し,3)事例としてタイビン省ティエンハイ県の干拓過程の特色を詳述することである。以下がその結果である。ティエンハイ県では18,979マウ(mau)の干拓地,71の村が2,350人の労働力によって生まれた。自然要素としての広大な干潟,社会的には卓越した個人による組織力,技術的には築堤技術や村づくりの手法,経済的には国家的な財政やインフラ援助などがうまく複合して成し遂げられた。さらに干拓請負人のモチベーションを促進したことも成功の一要因であった。1828年から19世紀末までに小さな干拓計画がいくつもこの地域に簇生した。とりわけ,重要なのは,ティエンハイ県南部に位置するドンタイン(Dong Thanh)行政村の例である。干拓地の灌漑施設の建設とその管理運用が重要である。その後も干拓は継続し,ベトナム語で"Dan thuy nhap dien"という,潮汐の差を利用した干拓様式は,灌漑に海水が入り込まないような工夫がされたものである。そこでは堤防の下に設けられた樋門を干満のタイミングにあわせて開閉することが要諦であり,樋門管理人の役割が非常に重要となる。
- 2006-04-01