「三老諱字忌日記」 : 臨書教材の視点からの研究
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概要
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隷書(れいしょ)は魅力に富んだ書体である。野生的で庶民的な香りの漂う素朴な味わいの「古隷(これい)」から、威儀を正した権力者や貴族を思わせる華麗な様式美を具えた「八分(はっぷん)」まで、造形や線質、全体構成の上から多彩な実の要素を包含している。隷書の範疇は、鑑賞の対象から学書の規範の一つとして、また書作品制作のジャンルの一つとして、更にそのすぐれたデザイン性と視覚的なアピール性があるため、今日でも新聞・雑誌、看板やポスターなど日常生活の中で目にする文字として、二千年以上の命脈を今日に保っている。その字体の構成はほとんど楷書と同じで、字画が水平垂直を基準としているので、読みやすく構築性に優れている。その上、楷書のような堅苦しさがなく、また行書のような崩れた印象もなく本質的にもっている装飾性があるために、デフォルメの仕方如何では最も斬新な造形を生み出す可能性を秘めている。中でも古隷は、八分のような様式美にとらわれない自由な表現のものが多くその素朴でおおらかな味わいに親しみと新鮮な印象を受ける。本論で学書者の臨書研究の参考資料として後漢初期、建武(けんぶ)二八年(五二)の古隷、「三老諱字忌日記(さんろうきじきじつき)」について考察して行く。