全国黒人代表者会議にみる教育観 : アンテベラム期アメリカ北部の黒人指導者たち
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概要
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本稿は、アメリカアンテベラム期の全国黒人代表者会議の議論を成人教育学の視点から読み解き、黒人指導者層が抱いていた教育観を描写して、アメリカ黒人成人教育史研究の一助とすることを目的とするものである。本稿で得られた知見として、第一に、彼らは父祖の地アフリカへの帰還を拒否してアメリカ人として生きることを選択し、アメリカ人としての教育を志したこと。第二に、アメリカ社会の改革運動に沿って道徳改善や家庭教育の奨励が唱えられたが、それらは白人中産階級の価値観に沿ったものであったこと。第三に、経済的自立を促す機械技術教育や農業教育が奨励され、とくにマニュアル・レーバー学校は黒人にふさわしいシステムであるとして、真剣に議論されたことが挙げられる。また資金難による代替案として示されたエージェント方式による民衆支援は、その後のアメリカ成人教育の発展との関係において、興味深い提案であった。このように黒人指導者層は、自由黒人がアメリカの価値観を内面化し、アメリカ市民としての役割をすすんで果たすことを望ましいと考えていた。彼らはアメリカに対して、いじらしいまでの憧れを抱いていたようにも思われる。奴隷制廃止を求め、政治運動にも与した黒人代表者会議運動の背景には、アメリカに対する愛着や憧れがあったことを看過してはならない。
- 2006-06-24