女性表現と身体の変容
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概要
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トルストイにせよ,フローベールにせよ,あるいは有島武郎にせよ,女性の精神をけっしてないがしろにしなかった作家といえども,女性が生殖を離れた愛と快楽を追求すれば,男としてそれを手きびしく懲罰せずにはおかなかった。こうして,女性がみずからの身体の欲望と快楽とその表現を自己表現として獲得することが,現代の女性文学にとっての最大のテーマとなったのであった。だが,女性を生殖から解放し,性と愛の快楽=***スにおいて女が男から主導権を取り返すために,二十世紀前半のフェミニズムの思想は,身体とセクシュアリティの未踏の領域を探求してきた。ピルの発明と解禁と普及という,避妊のテクノロジーは,あっけなく快楽と生殖を分離させたかに見える。フェミニズムは,自分たちを追い越して女たちの子宮に達したテクノロジーに追いっこうとして苦戦しなければならなかった。性と生殖をテーマとする,女性作家たちの表現へのさまざまな試みをあとづけながら,主として最近の河野多恵子,小川洋子,山田詠美などの作品分析を通して,みずからの身体において快楽の主体となった女性たちの,今,女であることの新しい定義を求める,暗闇の未踏の領域での思考に光を当てる。
- 1995-03-31