「今昔物語集」の「恩」について : 依拠文献との関わりを中心に
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概要
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「今昔物語集」は平安時代末期、院政期に成立したとされる我が国最大の仏教説話集である。説話の中には、恩をかけ恩に報いる話が収録されており、「恩」という語が散見できる。「今昔物語集」全三十一巻 (巻八・一八・二一は欠巻)は、天竺部・震旦部・本朝仏法部・本朝世俗部と四つの部立てで構成されており、収められている説話には依拠した文献の存在が明らかなものも多い。本稿では、「今昔物語集」の「恩」という語が依拠文献の表現を受け継いでいるのかどうか、依拠文献本文と比較・対照する。その結果を検討することにより、「今昔物語集」の恩についての考察の第一歩とするものである。「恩」という語を一例ずつ検討してみると、「恩」に関しては「今昔物語集」の本文と依拠文献との関係は複雑である。「今昔物語集」が、依拠文献の「恩」を踏襲していると考えられる例や、「恩」の複合語を使用している例、依拠文献にはないが「恩」という語を使っている例、対応する文がない例など、それぞれの依拠文献に「恩」という語がそのままあるものから、文そのものがないものまで多様である。依拠文献は、漢訳仏典・漢籍・本邦説話集など様々であるが、「今昔物語集」本文との関係については、特別な様相をみせる文献は、内外のいずれにも見出せなかった。結論的に「今昔物語集」の文章においては、依拠文献の文章をそのまま踏襲しているとはいえない。
- 2006-03-01