「児童虐待」という問題に配置される「子ども」 : 毎日新聞『殺さないで-児童虐待という犯罪-』を素材にして
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概要
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本稿では,児童虐待が「社会問題」として同定される過程を描き出し,どのように「子ども」が配置されるのかを探ることを目的とする。分析対象として「児童虐待」に関する特集が組まれた新聞記事を取り上げ,いかに「児童虐待」が語られ,「問題」として理解されるのかを考察することによって目的への接近を試みたい。その際,「クレイム申し立て活動」と「社会問題のカテゴリー」という概念に注目して,考察を進める。虐待が「問題」であるという状態の生成は,クレイムが申し立てられることによって行われる。クレイムの申し立てが成功するかどうかは,クレイムの受け手と「問題」を共有することができるかどうかにかかってくる。そのためにクレイムの語り手は,まず,虐待の「現実」の輪郭を明確にし,「現実」の残酷さを際立たせる。次に,クレイムの受け手の道徳的感情を喚起し,「現実」の共有が試みられる。「現実」が共有されると,共有された「現実」は,解決しなければならない「問題」として提示され,「問題」の「被害者」の当事者として「子ども」を配置するための作業が行われるのである。「問題」の「被害者」という当事者の地位を獲得した「子ども」は,「被害者」の対極に存在する「加害者」との関係再編に組みこまれることによって,「被害者」からの脱却が図られる。ただし,解決途上にある虐待という「問題」の「解決」に向けて,虐待という「問題」は提示され続け,「被害者」である「子ども」の地位は揺るぎないものとされる。
- 2006-03-25