トルコ語における非語彙的な複合
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概要
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本論ではトルコ語の二種類の語形成を対照させながら類似点と相違点といった記述的データを提示するだけでなく,それぞれの言語事実はどのような理論的意味を示すのかという点について考察する。考察の対象になるのは外来語起源の動名詞と補助動詞etmekから形成される複合動詞(例: dans etmekダンスすること)とetmekに意味的に類似する補助動詞yapmakと名詞から形成される複合動詞である(例: park yapmak駐車すること)。et-は日本語のサ変動詞に相当するもので,それ自身は語彙的意味を保持せず,全体の意味は結合する動名詞形あるいは名詞形によって決定され,補助動詞部分はもっぱら結合する名詞の動詞化と活用語尾を支えるだけの機能をもつ。しかし日本語のサ変動詞あるいは他言語で軽動詞(light verb)といわれるものとet-は類似はするが格や意味役割の付与(theta role assignment)に関して特異な性質を持つことを本論では明らかにする。一般的に語の構成素は文脈を与えることによって省略することが不可能である。etmek複合語の全体が語であることはet-と動名詞形の間に副詞や小辞を挿入できないなどのテストから証明できるが,興味深い点は等位接続構文において後続文のetmek複合語の動名詞形が省略できるという事実である(本文(4)参照)。このようなetmek複合語の語に関する相矛盾する特性を捉えるために語の内部構造はどうなっているのか,また格や意味役割はどのように与えられるのかを詳しく考察する。その結果,etmek複合語とyapmak複合語は文法モデルにおいて形成されるレベルが異なることを指摘する。またこの言語事実は一般言語理論に対しても興味深い問題提起をする。etmek複合語やyapmak複合語は語彙的な性質と統語的な性質を合わせ持つことが判明するのであるが,これは語というものは語彙部門でしか形成されなく統語部門との相関はないという立場に対する反例となる。本論でのトルコ語のデータから,語形成の原則が独立に,語彙的に形成される複合語にも統語的に形成される複合語にも適用すると考えることにより解決を図る。従来,語の複合は語彙的なものとして捉えられることが多かったが,非語彙的な複合の存在をトルコ語のデーターから提示することができる。
- 日本中東学会の論文
- 1996-03-31