自分の空間で暮らす : シンガポールで働く日本人女性
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概要
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1990年代初頭より,海外に職を求める日本人女性が急増し,香港とシンガポールには多くの日本人女性が押し寄せた。最盛期には,シンガポールで働く日本人女性は約1,000人,香港では約2,000人,中国・ベトナム・タイ・マレーシアでは,その数は数百人にまで達したと推測されている。この現象は,「日本人女性のアジア進出ブーム」と呼ばれ,日本の雑誌やテレビ,ニュースなどで大きく取り上げられた。海外で働く日本人女性が増えた要因としては,日系企業のアジア進出が以前にも増して活発化したこと,求人・求職にインターネットが活用されるようになったこと,アメリカ,イギリス,オーストラリアなど,アジア以外の地域で日本人女性の就業ビザ取得が難しくなったことなどにある。しかし,日本のメディアで,このブームが大きく取り上げられたにもかかわらず,この現象は,アカデミック研究では,ほとんど注目されていなかった。例えば,仕事のためにアジアに移住した日本人女性の経験や願望を記録したエスノグラフィーは,今までのところみられない。本研究は,海外で働く日本人女性が増えた要因を解明するために,シンガポールで働く日本人女性の事例を紹介することによって,こうした空白を埋めようとすることを目的としている。この問題に関して,これまで筆者が発表してきた研究成果に基づいて,アジアで働こうとする意思決定の背後にある個人的・職業的な動機を明らかにするために,「自分の空間」という語を概念枠として導入した。「自分の空間」とは,現代の日本における女性役割の二つのタイプ-専業主婦つまり家庭にいる母親と,男性優位の企業組織の中にいる「キャリアウーマン」-とは別の,新しく登場しつつある望ましいライフスタイルであると考えている。アジアで働く女性は,自分のライフスタイルが,従来の二種類の女性が得てきた経済的安定性を保証するものであるのと同時に,自分の望まない結婚をしたり,「サラリーマン・スタイル」の労働文化に従ったりといった犠牲を払わなくてすむものであると考えている。「動機」とは,文字通り,内的要因によるものであり,外的要因によるものではない。それゆえに,本研究では,海外で働く日本人女性の増大が増えた要因を,企業の国際化や地域における労働力需給といった外的要因以外のものに求めることによって,仕事や結婚,ライフコースに対する女性の考え方における変化が重要な要因であることを示すことを目的としている。
- 2006-07-28