丹下健三の「伝統」と「創造」の概念に潜むモニュメンタリティの原理 : 丹下健三の建築言説の形成に関する研究
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概要
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研究目的と方法 本研究は、丹下健三の建築言説を対象とし、「伝統」と「創造」という、よく知られた彼の概念の根底に「モニュメンタリティ」の原理が潜んでいることを明らかにするものである。「伝統」と「創造」という概念について、丹下は「Michelangelo頌-Le Corbusier論への序説」(1939)の論文で初めて論じている。そして約二十年後、『桂・日本建築における伝統と創造』(1960)及び『伊勢・日本建築の原型』(1962)において、再び論じている。本研究ではこれらを主要な対象とする。丹下の建築言説には、ル・コルビュジェをはじめ彼が影響を受けた近代西洋哲学者(ニーチェ、ハイデッガー、ヴァレリー)が引用されている。そこで本研究では、それらの原典と丹下の解釈との比較分析を通して、丹下の建築言説を解釈する方法をとる。研究内容 「Michelangelo頌」と約20年後の2冊の著作(『桂』と『伊勢』)を比較し、丹下が用いる「伝統」と「創造」の概念の根底に「モニュメンタリティ」に対する丹下の関心があることを示す。近代建築とモニュメンタリティの関係については、ル・コルビュジェ等の近代建築家やギーディオンも関心を示しており、それらの影響と丹下の独自性を以下のように明らかにした。現代建築家としてのル・コルビュジェの独創性は、過去を見習うボザールのアカデミーとも、伝統を無視する他のモダニズム派(バウハウス)とも異なる方法で、パルテノンのモニュメンタリティを参照したことにある。ル・コルビュジェによると、パルテノンは幾何学の秩序と数学の応用の完璧なモデルとされ、その時代の意志を象徴する建物と解されるが、丹下によるとパルテノンのモニュメンタリティは二つの幾何学の様式の完壁なバランスであり、それらは有機的かつ経験的、無機的かつ合理的と解釈されている。この解釈の二重性はヴァレリーによっても説明され、ニーチェが定義したアポロとディオニュソスの概念が元になっている。丹下は日本建築における「伝統」と「創造」の起源を分析するために、この考え方を応用したと考える。なぜなら、伊勢神宮もまた二つの伝統美によって説明されるモデルとし、一つは縄文的なるもの、もう一つは弥生的なるものとしているからである。更にこの考察はsymbol化されたものというモニュメンタリティの原理を丹下に対して新たにもたらした。結論 丹下はミケランジェロとパルテノンに関するル・コルビュジェの言説を分析し、西洋建築の起源であるパルテノン同様、この分析を日本建築の起源である伊勢神宮に適用したことを示した。また、パルテノンと伊勢神宮はともにモニュメンタリティを表現しており、それらが建築を生みだす神話の象徴として、丹下のモニュメンタリティを理解する上で重要な要素であると考えられる。丹下は「伝統」と「創造」に明確な定義を与えず、ブリコラージュ(レヴィ・ストロース、1962)のように、象徴的なイメージと名前を参照しながら、それらに意味を与えていると考えられる。直接に言及されることはないが丹下の真意は建築の起源を理解し、現代におけるモニュメンタリティをデザインすることにある。現代建築家として、常に「伝統」と「創造」の起源に戻り、ゼロから現代のモニュメンタリティを再解釈することが、丹下健三の「伝統」と「創造」の概念に潜むモニュメンタリティの原理と考えることができる。
- 2006-03-30
著者
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ジャケ ブノア
東京大学生産技術研究所
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ジャケ ブノア
京都大学大学院工学研究科
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Jacquet Benoit
Graduate School Of Engineering University Of Kyoto
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