家族愛と病者の<死ぬ義務>
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
アメリカの哲学教授であるジョン・ハードウィックは、1997年発表の論文「死ぬ義務はあるか?Is there a duty to die?」のなかで、ある種の患者の<死ぬ義務>を主張している。彼が唱える<死ぬ義務>説は次の4本の柱に支えられている。それは、第一に医療の高度化、第二にヘルスケアシステムの不備と社会の怠慢、第三に家族愛、最後に患者のアイデンティティーの確認と尊厳の回復、である。これまで、彼の論に対しては様々な批判がなされているが、本稿ではそれらの諸批判とは異なる角度からハードウィックの<死ぬ義務>説を内在的に批判することを試みる。ハードウィックは、<死ぬ義務>は社会や他人から課されるのではなく、患者自身が自ら進んで、いわば内発的に引き受ける限りで道徳的である、ということを強調する。しかし、家族という親密圏において、その義務の内発性はたとえ最初の一度だけは成立するとしても、その後他の家族成員において保持されうるものかどうかは疑わしい。つまり、家族のひとりが義務の引き受けを言明化することによって、他の構成員がそれに拘束されることが十分に考えられるのである。さらに、そもそも義務の内発性というものがあり得るのかどうかについても問わねばならない。この問題は、道徳的言説および道徳そのものの根本に関わる大きな問題にも連なっている。
- 2002-09-17