詩人としてのケストナー
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概要
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ケストナーはわが国においては児童文学者として有名であり,すべての『子どものためのケストナー』は古くから邦訳され,日本の「子どもたちともう子どもでない人々」に読み継がれてきた。ケストナーの子どもの本の魅力は,賢く勇気ある子どもたちが,一致団結してずるく性悪な大人たちをやっつけ,胸のすくような勝利を収めるそのダイナミックな展開にある。だが『大人のためのケストナー』に収められた諸作品には,このような明るい展望は見られず,特にその詩は「陰鬱で,諦念にみち,苦く,辛妹で」である。「非凡な観察」者であるケストナーにとっての世界,彼の時代の現実は,まさにそのような問題にみちた厳しいものであったということである。彼の児童文学の面白さも,単なる子どもの夢と冒険物語の楽しさにあるのではなく,実はそのような苛酷で不安定な現実を出発点として,それを基盤に展開されている点にある。このように見てくるとケストナーの文筆家としての本領は,何よりもまずその詩作品において発揮されていると考えられる。以下においてはこのようなことを踏まえながら,ケストナーの詩3編を考察する。
- 2006-03-20