スーフィズムにおける性の意義の変遷 : マッキー、ガザーリー、イブン・アラビー
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概要
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本稿では、ガザーリーの宇宙論とセクシュアリティーの結びついた議論の独自性を明らかにし、マッキーからガザーリー、さらにイブン・アラビーへと変容していくスーフィズムの思想史にガザーリーを位置付ける。ガザーリーはセクシュアリティーに大きな関心を持っているが、ガザーリーの神秘思想における性の問題を分析した研究はあまりない。***を含む人間の欲望全体を克服していく禁欲主義や、修行論の中で論じられてはいるが、***を抑える方向に関心が向けられており、神秘主義における性の意義については明らかにされていないのである。スーフィズムとセクシュアリティーの研究は、ガザーリーよりもむしろイブン・アラビーの研究が中心であり、存在一性論における女性観、性愛観が論じられることが多い。筆者はガザーリーの代表作『宗教諸学の再興』の「婚姻作法の書」の分析を行ったので、それを踏まえ、「二つの欲望の撲滅の書」を中心に、ガザーリーの神秘思想における性の役割を検証し、特に宇宙論と性の議論との結びつきを明らかにする。そしてマッキーとイブン・アラビーの議論と比較する。まずマッキーにおいては、世界はジャバルート界、マラクート界、ムルク界に分けられるとし、後にスーフィズムにおいて発展する階層的宇宙論の萌芽がみられるものの、彼の宇宙論は断片的であり、また性の力を神への崇拝へ生かしていくよりは、むしろ禁欲的に***を抑えていく立場である。ガザーリーは、マッキーの宇宙論を体系化し、ムルク界とマラクート界との対応関係を説き、人間霊魂が二つの世界を上昇し、神との合一に至るとした。さらにガザーリーは性の持つ肯定的な力を認め、性に対する考え方と宇宙論が一体となった結果、***は、神秘修行を含む神への崇拝に励む原動力になる、という思想を理論化することができた。神と世界を一体として見る存在一性論を説くイブン・アラビーにおいては、神と世界の一体性と重なる男女の性的結合が重視されている。ガザーリーは、性の肯定的な力を取り入れ、自らの神秘主義的宇宙論に適合する形の修行論を展開しているのである。なお本稿は、すでに日本語で発表した拙稿[Aoyagi 2005 b]と内容的に重複する部分を含むが、マッキー、ガザーリー、イブン・アラビーの議論の変遷について考察を深めたものである。
- 2006-08-08