レクリエーション草地の生態的収容力に関する研究
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
レクリエーション草地植生の生態的な水準を維持する上で許容し得るレクリエーション利用量,いわゆる生態的適正収容力の定量化に関する基礎的な調査研究は1970年代頃から活発に進められるようになったが,必ずしもその成果がレクリエーション計画に直結する情報とはなり得ていないのが現状である。レクリエーション草地を訪れる利用者数は日によって大きく変動する。また草地内に散らばる滞在者数も時々刻々と変動するだけでなく,空間的にも決して均等に分布することはない。本研究では,このようなレクリエーション利用の時間的変動と空間的変動を前提に置きながら,レクリエーション計画で用いる利用者数,滞在者数と関連させて適正収容力の算定を行った。調査研究の対象としてニケ所,すなわち,ススキ型草地とシバ方草地から成る奈良若草山と,シバ型草地である淀川河川公園を選定した。これらの草地におけるレクリエーション利用の動態を数理モデル的に表現するとともに,レクリエーション利用量と植生の定量的関係を明らかにして,それらをもとにレクリエーション草地における生態的収容力を算定した。本研究で得られた知見の概要は以下の通りである。1)植生の生態的特性に直接反映するレクリエーション利用量には年間総利用者数あるいは延べ滞在時間を用いるのがもっとも適切であるが,それに代わるより簡便な指標として年最大滞在者数を用いることの妥当性を検証した。2)若草山を対象として,航空写真によりレクリエーション利用者の空間分布をメッシュ法によって解析し,区画当たりの滞在者密度の頻度分布を近似式によってあらわした。さらに,この式によって,草地全体の総滞在者数の変動に比例して,各滞在者密度別の草地面積も変動することが明らかとなり,したがって,利用密度の疎密に伴う植生の生態的分化との関連性を,最大滞在者密度を用いて,比較検討することの正当性が立証された。3)各区画の最大滞在者密度と,各区画の植生を類型化したススキ草地面積率との関係を近似式によってあらわすとともに,これに基づいて,ススキ優占区画,シバ優占区画,裸地化区画における限界最大滞在者密度を明らかにした。さらに,草地内に裸地化区画が生じない年最大滞在者数をもって適正収容力とみなし,年最大滞在者数の増減に連動する各区画の最大滞在者密度と植生型との関係を用いて適正収容力を検討した。その結果,若草山における適正収容力は全体で3000人であると推定された。したがって,現在は約2倍の過剰利用である。4)一方,圃場における芝生の踏みつけ実験に基づいて,利用密度が草地の植被率に及ぼす影響を関数的に表現した。この関係を用いて,野外における植被率調査から,航空写真に依存すること無く,逆に利用密度を推定する方法を確立した。そして,淀川河川公園の芝生広場にその方式を適用して,芝生地における適正収容力の診断をおこなった結果,ここでもやはり約2倍の過剰利用の状態に有ることを明らかにした。5)さらに,これらの研究成果を草地面積の必要量算定にどのように応用するかを示した。
- 1989-03-31