作物の乾物生産における密度効果に及ぼすCO_2濃度の影響
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概要
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本研究は,葉菜を用いて作物の乾物生産における密度効果を個体群内におけるCO_2拡散の観点から検討し, 「最終収量一定の法則」について新しい視点から示唆を行ったものである。1)自然環境下の圃場でフダンソウおよび大阪シロナを4段階の栽植密度で栽培し,個体生長量,葉面積および単位面積当り乾物重を調査して,乾物生産における密度効果について検討を行った。圃場において4月20日に播種し,5月21日に定植したフダンソウおよび5月21日に直播した大阪シロナについて,7月5日に調査を行った。両作物の個体生長量については,最大葉長,葉数,葉面積,新鮮重はいずれも栽植密度が高い程減少した。単位面積当りの乾物重および葉面積指数は両作物ともに栽植密度にかゝわらずそれぞれ一定であった。葉面積比ではフダンソウの最も粗植の区がやゝ大きかったが,両作物ともに栽植密度による差が認められなかった。このようにフダンソウおよび大阪シロナの個体群の乾物生産量は栽植密度にかゝわらずほゞ一定であり,この結果は「最終収量一定の法則」が供試蔬菜の乾物生産においても成立することを示している。2)密植による乾物生産の増大効果に及ぼすCO_2処理の影響について,ビニルハウス内で栽培したホウレンソウの2品種およびシュンギクを用いて検討した。すなわち,生育途中で間引いて栽植密度を半分にした粗植区と,間引きをしなかった密植について,CO_2濃度を約3000ppmに高めたCO_2区と自然大気の対照区を比較した。12月25日播種し,1月18日よりCO_2処理を開始し,3月5日に調査を行った。ホウレンソウ,シュンギクの個体生長量は粗植区が密植区より,またCO_2区は対照区より大きかった。単位面積当り乾物重は対照区では密植区が粗植区よりも僅かに大きかったのに対して,CO_2区における密植区は粗植区よりも著しく大きかった。この結果は,栽植密度の増加による乾物生産量の増大がCO_2濃度を高めると著しくなることを示し,さらに密度効果の限定要因としてCO_2濃度が重要であることを示唆している。3)栽植密度と乾物生産量の関係に及ぼすCO_2処理の影響を明らかにする目的で,フダンソウをガラス室内の生育箱を用いて水耕栽培し,1100〜1300ppmのCO_2処理が4段階の栽植密度と乾物生産との関係に及ぼす影響を検討した。個体生長量については,最大葉長,新鮮重,葉面積はいずれも栽植密度の低い程増大し,CO_2区は対照区より著しい増大を示した。単位面積当り乾物重は栽植密度の高い区およびCO_2区は対照区よりも多くなり,その最終収量水準も高くなった。葉面積指数も栽植密度が高まるに従い増加し,CO_2区はさらに増加した。葉面積指数が大きくなるに従って,乾物重は増大したが,同一葉面積指数における乾物重はCO_2区が対照区より多かった。以上のように,CO_2処理によって栽植密度の増加に伴う乾物重ならびに葉面積指数の増加が著しくなることが明らかとなった。4)CO_2濃度に自然大気を含め4段階を,栽植密度に4段階をそれぞれ設けて,密度効果に及ぼすCO_2濃度の影響をガラス室内の生育箱を用いて栽培したフダンソウについて検討した。また個体群内の日射透過率を調べて最終収量が一定になる機作を解明した。単位面積当り乾物重は自然大気区において,栽植密度の増加に伴って増大したが,200個体/m^2以上では増大せず一定になった。しかし高CO_2濃度区においては,栽植密度が高くなるに従って乾物重は増大し,その程度はCO_2濃度が高い程著しく,供試栽植密度の範囲内では乾物重は一定にならなかった。葉面積指数は栽植密度が同一でもCO_2濃度の高い程大きくなり,葉面積指数がおよそ7となる栽植密度は300ppm区では400個体/m^2であったが,6000ppm区では200個体/m^2であった。葉面積指数と単位面積当り乾物重との間には正の相関々係が認められ,同じ葉面積指数ではCO_2濃度が高い程乾物重が大きかった。葉面積比はCO_2濃度の高い区が小さかった。個体群の最下層における日射透過率は栽植密度が高くなるに従い小さくなった。CO_2濃度が高まると日射透過率は小さくなったが,CO_2濃度による差は栽植密度の高まりにつれて小さくなった。日射吸収率(日射透過率の逆数)と単位面積当り乾物重との間には正の相関々係が認められ,同一吸収率においてはCO_2濃度が高い程乾物重は多くなった。これらの結果は,CO_2濃度が高くなるに従って最終収量は多くなり,また最終収量に達する栽植密度が高くなることを示した。このことから作物の乾物生産における密度効果はCO_2濃度によって著しく影響されることが明らかになった。さらにCO_2濃度が高い程同一葉面積指数における乾物生産量は増大し,その増大は一定の日射吸収率における乾物生産量の増大に基づくことが明らかとなった。以上の結果から,作物個体群の乾物生産における「最終収量一定の法則」は,個体群内へのCO_2拡散が限定要因となって成立していることが示された。5)個体群内におけるCO_2濃度および光強度の垂直分布を種々の栽植密度,生育段階,光強度,風速などの条件についてフダンソウを用いて調査した。栽植密度は1m^2当り49,123,323,506個体とした。生育に伴う個体群内のCO_2濃度および光強度の垂直分布の20日目と30日目に調査した。CO_2濃度および光強度はともに個体群内で下層になる程低下し,その程度は栽植密度が高い程,また生育段階が進む程顕著であった。生育30日目では草冠上でもCO_2濃度の低下が見られた。光強度を異にした場合のCO_2濃度は光強度が強い程著しく低下し,その程度は高密度において,とくに群内で最下層に近い位置で顕著であった。暗黒条件下では暗呼吸によってCO_2濃度が上昇し,その程度は高密度区において著しかった。個体群内のCO_2濃度は風速によって著しく異なった。すなわちCO_2濃度の低下は風速が低い場合には個体群内の全域にわたるだけでなく,草冠上においても認められ,低下の程度は栽植密度の高い区が顕著であった。しかし風速が高くなると,CO_2濃度の低下は栽植密度の高い区に限られた。このようにCO_2濃度の低下が密植区程顕著であることは,個体群の乾物生産における「最終収量一定の法則」成立要因の一つがCO_2濃度であることを示している。以上のように,CO_2度を高めると最終収量に達する栽植密度は高くなり,かつ最終収量の水準は上昇した。収量水準の上昇には,一定の葉面積指数または一定日射吸収率における乾物生産量がCO_2濃度の高い程上昇することが要因となっている。一方,生育が進み,光強度が強く,さらに風速が遅い程,個体群内のCO_2濃度の低下が著しかった。これは群内のCO_2拡散抵抗の増大に基づくものである。本研究の結果は,個体群の乾物生産を規定する要因として,従来考えられていた光条件や養,水分条件の他に,CO_2濃度および個体群内におけるCO_2拡散が重要であることを示すものである。従って,作物個体群の乾物生産における密度効果を決定する重要な要因としてCO_2濃度をあげることができる。
- 1988-03-31