麦類の春化に関する研究 : とくに麦類植物の春化に及ぼす諸条件の影響について
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概要
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小麦および大麦植物の低温春化ならびに短日春化に及ぼす温度,日長などの環境要因の影響について検討した。(1)恒温による低温処理効果について検討した。4℃ないし12℃のように,低温として幾分高い温度での春化効果がもっとも大きかったが,秋播性程度が著しく高い品種では最適温度の上限がやや低かった。この最適温度は葉令によっても異をらなかったが,効果は葉令の増大とともに小さくをり,ついには認められなくをった。低温春化効果が認められをくなる葉令は品種の秋播性程度により,また低温処理前の生育温度により異なることが考察された。低温春化効果が最大になる処理適温は春化の段階により異なり,概して春化の初期は幾分高い温度がよく,中期は低温でも幾分高い温度でも同様であり,後期はやや高い温度がよかった。(2)日変化する温度による低温処理について検討した。処理温度とその温度での処理時間とから計算した平均処理温度が同一であればほぼ同程度の春化効果を示した。しかし秋播性程度の高い品種において,日変化する温度に5℃以下の低温および15℃以上の高温が同時に含まれている場合には低温の効果が高温により消去され,従って日較差が大きい場合に処理効果が減少することが示された。秋播性程度の低い品種ではそのような減少は認められなかった。上記の結果,日変化する温度による低温春化は秋播性程度の高い品種では平均温度0℃から14℃まで,低い品種では0℃から16℃の範囲の温度の処理で認められ,処理の最適温度は前者では平均温度5℃から10℃まで,後者では5℃から15℃までの温度の範囲であった。(3)種々の温度周期による低温処理について検討した。24時間周期の下で低温および高温を交互に処理した場合には,それぞれの温度での処理時間に応じて低温春化効果に差異を示し,1日当り4時間の低温または高温の影響も明らかに認められた。1日より長い周期,すなわち数日間の低温処理と数日間の高温処理とを低温処理合計日数が所定日数に達するまで反復した場合には,低温処理が数日以上連続すると低温春化効果がかえって減少した。しかし十数日以上連続した場合には低温春化効果の減少はみられなかった。上記のような効果の減少は低温処理温度として10℃のような幾分高い温度,高温処理温度として15℃のような比較的低い温度を用いた場合には少なかった。(4)低温処理期間中の肥料条件の影響について検討した。窒素または加里無施用により低温春化効果が減少したが,燐酸無施用による効果の減少は少なく,マグネシウム無施用による効果の減少は認められなかった。これらの要素無施用による春化効果の減少は生育のほとんどみられない低温で処理した場合にも認められ,要素欠乏のための生育不良による二次的影響ではなかった。(5)低温処理期間中の光条件が低温春化効果に及ぼす影響について検討した。低温処理期間中の照明時間が短縮するに従い低温春化効果が減少し,暗黒条件下で処理した場合には処理効果が著しく劣った。その場合蔗糖を与えることにより処理効果の減少程度が小さくなった。また日変化する温度条件下で処理した場合には,昼間の高温期間中に光が与えられれば,夜間の低温期間中には暗黒条件でも照明条件と同程度の効果が認められた。上記の諸結果は光が同化生産物の供給を通じて低温春化に影響することを示した。(6)著しい低温による低温春化効果は春化処理後の高温により消去されやすく,幾分高い温度による効果は消去の影響が少なかった。春化処理後の高温処理期間中の温度が日変化する場合には,日変化する温度に低温が含まれていると,平均処理温度が同一であっても消去の影響がやや少なくなった。(7)短日春化効果は1葉内外の葉令の時にもっとも大きく,2葉以上では葉令の増大とともに減少したが,15℃以下の低温に遭遇していない場合には12〜13葉のものでも若干の効果が認められた。しかし短日春化効果が認められる葉令は短日処理開始までの低温感応程度が大きく守るに従い若い葉令に限定された。秋播栽培において短日春化効果が認められなくなる時期は播種期により異なり,晩播になるに従い播種後早い時期に効果が認められなくなった。以上のように短日春化効果が認められなくなる時期の大麦作物体の発育程度は一定葉令または一定幼穂分化程度に達した時期ではなく,ある程度春化された時期である。(8)恒温条件下での短日春化効果は短日処理期間中の温度が高くなるに従い増大して,18℃ないし22℃で最大となり,22℃以上では減少したが,30℃でもなお若干の効果が認められた。この傾向は秋播性程度を異にする品種間にあってもほぼ同様にみられた。昼温と夜温を異にする条件下で短日処理を行なった場合,1℃ないし22℃の範囲内では昼温または夜温のいずれかが低温であれば他方が高温であっても短日春化効果は小さく,昼温が18℃ないし22℃,夜温が14℃ないし18℃の時に最大であった。昼温と夜温との平均温度が同一の場合には,昼温と夜温とが等しいか,または昼温が夜温よりやや高い時に短日春化効果が大きく,昼温が夜温より低いか,または昼温が夜温より著しく高い時には小であった。(9)短日処理期間中または処理後の温度が著しく高い場合には短日春化効果が減少したが,減少程度は後者の場合が小であった。また減少程度は高温処理時間にほぼ比例し,昼夜の別による影響の差異は認められなかった。短日春化効果の高温による消去程度は低温春化効果の場合と比較すると著しく小さかった。(10)短日春化効果は短日処理期間中に長日処理を挿入することによっても減少した。長日処理挿入による短日春化効果の消去程度は高温による消去程度より大きく,挿入長日処理日数が増大するに従い大きくなり,同一日数挿入する場合には連続して挿入するよりも1日ずつ挿入した時に,短日処理の前半に挿入した時に,長日処理中の温度が高い時に,それぞれ消去程度が大であった。(11)大麦の短日春化には限界日長が認められ,品種により限界日長を異にした。供試品種の範囲内では限界日長の長短と短日春化性の大小との間には関連が認められず,また秋播性程度,早晩性,原産地との間にも明確な関連が認められなかった。以上のように麦類における低温春化と短日春化はともに麦類を春化に導き,出穂の基礎を作るのであるが,環境条件とくに温度および日長の影響を著しく異にしている。これらの相異は低温春化と短日春化とで供試作物を異にしていることを考慮してもなお明らかである。
- 大阪府立大学の論文
- 1975-03-31