Pythium属菌による子苗立枯病の研究 : 特に原形質の能動的抗菌性による植物の疾病抵抗性機作に関する研究
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概要
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本論文はPythium属菌による子苗立枯病を材料として寄主抵抗性機作を研究した.即ち寄主抵抗性の本質を病原菌の侵害にもとづく原形質の代謝活性によつて生成される蛋白質様の抗菌物質に求め,更に罹病組織の褐変による防禦によつて,病原菌の蔓延を完全に阻止すると結論した.I子苗立枯病抵抗性に関する生理学的研究第1篇では寄主と病原菌との特異性にもとづく寄主の抵抗現象を病理学的,生理学的に解析した.1.接種試験の結果から,Pythium属菌に対する供試植物の感受性の程度を次の如く分けることが出来る.不感受性には水稲,蚕豆,強抵抗性には甘栗南瓜中抵抗性には菊座,鹿ケ谷,富津南瓜,弱抵抗性には錦甘露,強罹病性には胡瓜,西瓜等.2.寄主感受性は病原菌と寄主との特異性によつて定まるが,その特異性は不変的でない.寄主抵抗性は寄主を衰弱状態に置いた場合,麻酔及び高温などの異常処理を施した場合に失われる.3.寄主組織が病原菌の侵入に際して示す抵抗現象に,組織の褐変現象がある.褐変は病原菌毒素によつて促進され,且つ機械的に侵入を阻止する.4.強抵抗性品種では,侵入菌糸の生育は組織の褐変前に阻止されている.抵抗性中位の品種に於ては,菌糸が褐変組織から更に前進して発育している.麻酔などの異常処理で寄主の抵抗性は失われる.以上の理由から病原菌は組織の褐変以前に原形質の抗菌機能によつて,その生育を阻害される.5.抗菌機能は強抵抗性寄主に於て病原菌が侵入後にはじめて細胞内に生成せられるものであつて,従来から報告されている静的抗菌性に対して原形質の能動的抗菌性と称することができる.II組織の褐変現象に関する生化学的,組織化学的研究寄主抵抗性機構に組織の褐変現象がある.第2篇では組織の褐変機構について生化学的及び組織化学的に考察した.1.組織の褐変生成機構は原形質機能の活性化に伴う呼吸の異常増加によつて,polyphenol oxidaseの活性化の増大,polyphenol化合物の増加,酸化型ascorbic acidの増加を来し,生成されたo-quinoneがアミノ酸,変性蛋白質などと縮合してmelanin色素を生成し,細胞内に充填される結果である.2.原形質機能の活性化は褐色壊死細胞,特にその隣接部の健全細胞に於て著しい.3.抗菌性をもつpolyphenol化合物としてchlorogenic acidの外数種のものが組織化学的及びpaperchromatographyによつて検出されたが,その抗菌力が直ちに抵抗性と関連すると断定するのは困難である.罹病組織の褐変は寄主の病変現象で,褐色物質による抗菌性及び機械的防禦によつて寄主抵抗性に役立つが,必ずしも抵抗性の本質とは考えられない.III細胞原形質の能動的抗菌機能及び抗菌性物質に関する病理化学的,細胞化学的研究第3篇では原形質機能の活性化に関与する病原菌毒素の分離並びにその作用を確め,その活性化に伴う原形質内の異常代謝について生化学的及び細胞化学的観察を行い,更に生成せられた蛋白質様の抗菌物質の分離及びその抗菌作用について検討した.1.病原菌毒素として,弱酸性の3種の結晶を取り出した.これらの毒素は細胞呼吸を阻害するが,それはoxidase, peroxidase, catalaseなどの呼吸酵素系の阻害によるものである.2.原形質の活性化は,原形質内のmicrosome及びmitochondriaなどの蛋白質物質の増加及び流動によつて裏付けられる.活性化に伴う呼吸増加は病原菌毒素がuncouplerとして作用する外に高エネルギー燐酸化合物のenergyが生合成に有効に利用された結果であると考えられる.その過程に於いて抗菌性蛋白が生成されるとみられる.3.寄主細胞の原形質の過敏感反応は原形質の代謝活性の結果として現われる.褐変現象及び抗菌性蛋白質の生成は過敏感反応の過程に於いて現われた寄主の抵抗反応である.4.抗菌性物質はcellophaneで透析されず,飽和(NH_4)_2SO_4溶液及び25%,50%及び70%ethanolで沈澱する熱に不安定な蛋白質様の物質である.
- 大阪府立大学の論文
- 1959-03-15