日本新記録の背楯類 Berthella martensi (Pilsbry, 1896) チギレフシエラガイ(新称)について
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概要
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沖縄本島および小笠原諸島父島より採集された18個体の背楯目の標本を調べたところ, 日本産未記録のBerthella martensi (Pilsbry, 1896)と同定された。本種は小型で, 背楯は大きく, 動物体の輪郭は楕円形をしている。背楯は腹足やえらを覆い, その前端中央には深い切れ込みがある。背楯は4個の部分からなり, 刺激によって殻を内包する中央部分を残して, 右側, 左側と後ろ側の3個の部分は自切によって本体より離れるという特徴がある。頭膜は大きく, 台形をしている。頭触手は基部で左右が融合し, その先端は背楯の前端の切れ込みから外側へ突き出して見える。腹足の前端には顕著なmucus groove(粘液溝)がある。えらは懸鰓膜によって右体側につき, 軸の上下にそれぞれ11枚から19枚(平均14.4, N=8)の羽状葉を持つ。えらの基部には前鰓孔があり, 懸鰓膜の後端上側には肛門が開く。体色には3つの型が識別された。殻は背楯の中央部分の下にあり, 楕円形でやや膨らむ。殻の背面には成長線がみられる。殻は白く薄く, ホルマリン固定標本ではしばしば脱灰されて殻皮のみが残る。歯舌は中歯を欠き, 多数の側歯から成る(歯舌式は62-93×76-134.0.76-134)。側歯は強く彎曲し, 単尖頭である。側歯内側に顕著な溝を生じることがある。顎板は特徴のある十字形の小歯からなる。生殖器官系はBerthella属の典型であるが, 雄性輸出管にはprostate gland(前立腺)と呼ぶ膨大部を欠き, 太く長いpenial gland(陰茎腺)が付属する。交尾嚢は球形, 受精嚢は楕円体をしていて, 両者はほぼ同じ大きさである。生殖開口はえらの基部下側に丸い隆起を生じ, その中央に雄性開口があり, 後ろ側へ連続して雌性開口がある。陰茎は円錐形である。食性については消化管内容物より, 少なくとも海綿類を食べることがわかった。本種は1880年のMartensによる最初の記録以来, Willan(1984)とGosliner and Bertsch (1988)の報告があるのみである。今回の報告とそれらを合わせると, 本種の分布はインド洋から太平洋に及ぶ。本種は刺激を受けると背楯を自切するという奇習があるので, チギレフシエラガイという和名を提唱する。
- 日本貝類学会の論文
- 1991-10-31
著者
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坪川 涼子
東京水産大学
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坪川 涼子
Tokyo University of Fisheries
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ボーランド ロバート
The University of Maryland Asian Division
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