太平洋産腹足類の細胞学的類縁関係
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概要
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太平洋地区産巻貝類の細胞学的研究はその緒についたばかりであるが, 日本, 台湾, ニュージーランド, ニューカレドニア, ソロモン群島, ハワイ及びガラパゴス諸島の諸地域での研究が進みつつあり, 知見の増大と共に分類学に於ける有用性も増すと思われる。現在知れる限りに於いては太平洋地区巻貝類の染色体数は世界の他地区で決定された近縁のものの変異の範囲内におさまっている。そこで染色体数は種及び種群の類縁を示す形質の1つとして用い得るものであって, 或る場合には, 種, 亜属, 及び属のレベルに於ける判別に役立つものであるが, 余り有効でないこともある。直神経類(Euthyneura)では半数染色体は5から72までを示していて, 異った染色体数が或る決ったタクサ(分類学的単位)を特徴付けているが, それらのタクサ内ではそれに含まれる諸種の染色体数は著しく一定である。従って染色体数の増減に関する機構はこれらのタクサの内部では稀にしか働かないに違いない。高次の分類学的範疇に於ける染色体数の変化は異数性(Aneuploidy)による。倍数性(Polyploidy)は基眼類にのみ見られるに過ぎず, しかも普通に見られるものでもなく, また主に種のレベルで起る。一般に進化した類或いは特殊化したものと思われるのでは, 染色体数が多い。捩神経類(Streptoneura)では半数染色体数は7から47までで, 直神経類と同様に低次の分類学的単位では変化し難い。原始腹足類と中腹足類では染色体数が比較的少ないが, 新腹足類では多い。しかし或るグループの染色体数が小さいからといっても幾つかのグループの中で必ずしもそのグループが原始的とはいえないように思われるが, タニシ科の中ではその様な関係が存在するかも知れない。倍数性はヌマツボ科に予想され, またトウガタカワニナ科で報告されているが, 更に確かめられる必要がある。完全な核型分析の研究は少ないが, その大部分は太平洋地区産の巻貝類について行なわれたものである。この様な研究は将来種の判別と類縁などの分類学的な解釈上極めて有用となると期待され得るものである。
- 1967-07-31