三角格子反強磁性体NiGa_2S_4におけるスピン無秩序状態とその不純物効果
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概要
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磁気的長距離秩序を低温まで抑えることによって現れる新奇な量子状態への興味から、幾何学的フラストレーションを持つ系が最近注目を集めている。幾何学的フラストレーションは、反強磁性的に相互作用する三角格子を基調とした格子上で起こりうるが、その中で構造的に最も単純であり、盛んに研究されているものとして二次元三角格子反強磁性体が挙げられる。この系ではスピン無秩序状態の存在が理論的に予言されてから実験的、理論的にその基底状態を探るために様々な研究が試みられてきた。しかし現在では、理論的に120°構造を取って反強磁性秩序状態に落ち着くということで広く同意を得ている。一方で、スピン間のより高次な相互作用を考慮するとスピン無秩序状態が現れるという理論も存在する。実験的には、^3Heの薄膜や二等辺三角形の有機化合物など少数の系でのみ、スピン無秩序状態が観測されている。ところが、低温まで正確な三角格子を保ち続けるバルクの物質が存在しなかったため、このような物質を開発し、その基底状態を突き止めることが永年の課題であった。最近我々は、極低温まで三角格子を正確に保ち続けるバルクの物質、NiGa_2S_4の開発に成功した。この物質は低温まで磁気的長距離秩序が存在せず、スピン無秩序状態を実現している可能性が高い。我々はこの物質において現れる基底状態を突き止めるため、この物質自身とその不純物効果について研究した。NiGa_2S_4ではWeiss温度80Kという比較的大きな反強磁性的相互作用を持つにも関わらず、磁化率、比熱、中性子回折の結果から0.35Kまで磁気的長距離秩序が存在しない。そのかわりに10K以下で短距離相関を待ったギャップの無いスピン無秩序状態に入っていることが判明した。低温での比熱の温度の二乗に比例した振る舞いと絶対零度近傍での有限磁化率から二次元のスピン系におけるコヒーレントな線形分散が立ち上がっていることが示唆される。このようなNiGa_2S_4の基底状態の安定性を調べるため、Niサイトにおける非磁性不純物効果についても研究した。その結果、NiGa_2S_4で見られるコヒーレンスは不純物に対して非常に敏感であることがわかった。その他に、非磁性不純物に対しても比熱の温度の二乗に比例した振る舞いは消えず、物理量がWeiss温度だけで規格化できることから南部-Goldstoneモードの存在が考えられる。磁気的長距離秩序とバルクでの従来型のスピングラスフリージングが存在しないことから、NiGa_2S_4において新奇な対称性の破れが存在する可能性が高い。本論文ではこれらNiGa_2S_4の示す新奇な基底状態を説明する理論候補についても議論する。
- 物性研究刊行会の論文
- 2006-07-20