一次生産に対する植食圧の役割 : Grazing Optimizationの理論的解析(<特集1>生物多様性科学の統合をめざして)
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概要
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植食者からの摂食を受けることで植物の一次生産や繁殖量が増大する「grazing optimization」という現象が、多くの研究によって報告されている。この現象は、植物と植食者という異なる栄養段階に属する生物間の相互作用が、生態系を支える重要な要因である一次生産に影響するという意味で、生物多様性の機能と役割を理解する上で興味深い現象である。本研究では、このgrazing optimizationがどのような条件の下で引き起こされるのかについて、植物体中の栄養が植食を介して土壌中に再供給される「nutrient cycling」の役割に注目しながら、さらに植物のフェノロジーの進化と関連づけて理論的な解析を行った。その際、以下の点を明確にしながら解析を進めた。すなわち、(1)植食圧の増大に対する植物の反応が、進化や適応的な表現形可塑性によるフェノロジーの変化を伴う場合(「長期的反応」)とそれらを伴わない場合(「短期的反応」)の区別、および、(2)植食圧の増大に対して植物の一次生産が増大するのか、それとも繁殖量が増大するのかという区別である。これらの解析から、一般に「長期的反応」では「短期的反応」に比べてgrazing optimizationが生じにくいこと、特に繁殖量に関するgrazing optimizationが起きる条件がかなり厳しいことが分かった。また、植物個体間に栄養を巡る競争が存在する場合には、grazing optimizationが生じる条件が大きく緩和されることが明らかになった。
- 日本生態学会の論文
- 2005-08-31
著者
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