識字・字義・文学 : 「モルグ街の殺人」における文化貴族の形成
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概要
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ポウが1841年に発表した「モルグ街の殺人」は, パリを舞台に名探偵デュパンが活躍する作品として, 推理小説史の幕を開けた。しかし今日, その舞台や主役設定, はたまた残虐なる貴婦人殺しを行なったオランウータンなどをそっくり字義的に読むことは, いささか難しい。かつてバートン・ポーリンは, 本作品中のパリがいかにアメリカ化されているかを指摘し, 他方バーナード・ローゼンタールやジョアン・ダイアンらは, 作家の南部貴族的精神や奴隷制擁護の姿勢がいかにテクストの無意識を統御してきたかを分析した。本稿は, そうした新歴史主義批評以降のポウ研究をふまえつつ, ポウにおける修辞的テクストと歴史的コンテクストとがいかに記号的相互交渉を行ない, ひいては, ポウにおける歴史が作品の背景に埋没するどころかいかに作品内部の盲点を積極的に構造化してきたかを解明する。その前提としては, 殺人オランウータンを南部黒人の一表象と見る視点が選び取られる。だが, 南部的女性崇拝が黒人差別転じて黒人恐怖と密着していたのは当然としても, そうした恐怖の本質をさぐるとなれば, 人種意識を超えて, さらに南部における所有権の歴史を一瞥しなければならない。黒人に代表される「闇の力」への恐怖を形成したのは, 奴隷叛乱を懸念する恐怖のみならず経済革命としての農地再分配(アグレリアニズム)が貴族的主体を脅かし所有権を侵害することに対する恐怖だった。そしてデュパンは, 誰よりも南部に関するアレゴリーを読み解く技術に秀でた南部貴族として性格造型された。
- 1995-03-31
著者
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