日加協力関係の意味するところとその再考
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概要
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カナダと日本の関係は, 80年代に飛躍的な広がりをみせ, そのことは両者にとって好意的にうけとられてきた。しかしながら, その関係の本質は, 将来にとっていくつかのジレンマとなっている。カナダは始め, 1970年の白書の中で, 日本との提携事業の増大を英国や米国とのより伝統的な関係の束縛から自らをときはなす手立てとして奨励した。カナダと日本は, よきパートナーであり, 貿易, 投資, 観光, 文化的関係の拡大は両国にとって有益であると見なされた。しかし, その実践段階で, このより親密な相互関係はカナダをこれまで通りの政治, 経済様式に封じ込めてしまい, 同時にカナダを構成している諸要素間に新しい緊張を生みだしてしまったのである。貿易, 投資, 観光事業からおこる諸利益は, カナダ全土に均等に配分されてこなかった。その結果「持てる」地域, 「持たざる」地域の格差が広がった。それと同時に地域内の不均衡も助長されたのである。これらの事実が地域的, あるいは民族的分離問題の解決をより困難にしたのである。一方, 貿易や投資の短期的な諸利益は, 改革や適応をくじくものであった。日本の新市場のために海外ではかえっていままでどおりの経済様式が人工的に助長され, そのために社会的にまた政治的には新しい問題を生じた。その結果は, 分裂と緊張の助長であった。観光事業と文化交流は, カナダが自国のアイデンティティを模している状況に, 更に不必要な要素を付加し, 国家統合をさらに達成困難なものとした。このように, 日本とより緊密な関係を結んだことが過去の諸問題の逃げ口を提供するどころか, カナダの分裂と不調和の認識をこれまでよりいっそう際立たせるごととなったのである。これらの難題を相殺するために, 太平洋間パートナーシップの将来的効用を認識しつつ, これまでに使われてきた問題処理の様式をどこまで有効に拡大適用するこができるかということこそ, 日加両国関係が提示している中心的課題である。
- 上智大学の論文
- 1991-03-31