不登校児童生徒が期待する援助行動
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概要
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不登校児童生徒の不登校の状態やそのきっかけは様々であり,彼らに対する援助的関わりには,個別的アプローチが必要となる。児童生徒個々の発達状況や置かれている環境によって,乗り越えるべき課題が異なると考えられているためである。不登校を理解する視点の1つとして,発達課題の視点がある。例えば,中学生には,新しい価値基準の獲得といった,その時期特有の課題があり(笠井,2000他),それが不登校のきっかけや原因になったりするという視点である。確かに,それぞれの発達課題は容易に達成できるものではなく,課題への取り組みの困難さや達成の失敗をきっかけに不登校になることも少なくない。不登校児を理解・援助する際に,発達課題の視点は,非常に有用である。ところが筆者が出会った不登校児の中には,実年齢以前の発達課題でつまずき,その課題は達成されないままの状態になっている子どもも少なくない。既に中学生の年齢になっているのに,対人関係の技術が実年齢の子ども遂に比べ,著しく未熟だったり,興味・関心が小学校低学年程度の生徒は,とても同年代の仲間集団には適応できないだろう。ある時期の発達課題の未達成が,後の発達段階で問題を生じさせるものと考えられる.故に,実年齢の発達課題についての視点,すなわち横断的に発達をとらえる視点だけではなく,それまでの発達課題で達成できていないものは何か,不登校になったために本来なら体験すべき教育経験や対人関係が限定されてしまい,本人の実年齢に即した発達が阻害されてしまったのではないか等を考慮して不登校児に対する理解・援助を行う必要がある。不登校により阻害された経験が,学校復帰への妨げになることは,不登校による学業の遅れを考えると容易に理解できる。不登校児童生徒が,いざ学校へ復帰しようとしたときに,学業の遅れが気になって,登校行動が妨げられることも少なくない。近年,不登校児童生徒への援助的関わりとしてに,グループ体験や野外体験活動が多く行われている(国立オリンピック記念青少年総合センター1998,笠井, 1999)。これらの活動は,集団生活の中で傷ついた不登校児童生徒に,緩やかなペースの小集団活動を通して,自己信頼感や自信,集団で活動する楽しさ等を取り戻させる機能だけでなく,不登校をしていたがために阻害された経験や対人関係を補う機能も有している。この経験補足的な視点は,これまであまり着目されていなかったように思われるが,不登校児童生徒が再び学校へ復帰する場合に,同学年の集団への適応をより円滑に行うためには,非常に有効な関わりであると考えられる。そのような関わりを行うためには,まず,児童生徒が不登校という経験から,どのような影響を受けているかを明らかにする必要がある。そこで本研究では,不登校児童生徒が担任や友人に期待する関わりについて,現在の年齢という視点に加え,不登校になった時期や不登校の長さ等を分析の観点に加えて検討する.それによって,不登校をしている間に阻害された経験や,反対に不登校だからこそできる他の児童生徒が経験することができない経験を検討することが,現時点での不登校児に対する適切な援助のあり方についての有用な視点となる可能性について検討する。
- 2001-02-28