ジャイナ教の解脱論--ハリバドラスーリを中心に
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概要
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ジャイナ教白衣派の学僧ハリバドラスーリ(Haribhadra Suri,8世紀頃)にとって,仏教論理学者ダルマキールティ(Dharmakirti, 600-660年頃)を論難し,ジャイナ教教義の正当性を主張することは大きな関心事であった.仏教とジャイナ教との対論はダルマキールティ以前からあったが,彼がその著書の中でジャイナ教の多面説を批判したことによって,議論は再燃する.ハリバドラは解脱論に言及する中で,ダルマキールティの刹那滅論に焦点を当て,刹那滅論の立場では為した業が刹那に消滅してしまうため,自業自得という最も基本的な因果関係さえ成り立たないことを指摘する.また,再認識や想起等が不可能となるという認識論上の不都合も生じるとした.その上で,対象の刹那滅性という一面的,絶対的な見方ではなく,ジャイナ教徒の拠って立つ「積極的多面説」こそが解脱に至る手段として優れていることを主張する.本稿では,ジャイナ教独自の輪廻観,解脱論を概観しつつ,『多面説の勝利の旗』(Anekantajayapataka)の姉妹書である『積極的多面説入門』(Anekantavadapravesa)第5章を主たるテキストとして,ジャイナ教の多面説からの刹那滅論批判が如何にして行われたのか,その一側面を提示した.同時に,ハリバドラと同じく多面説の立場を主張しながら,彼に先行するサマンタバドラ(Samantabhadra, 600年頃)の著作を比較の対象とし,刹那滅論の論拠の違いから,想定する論敵に変化が見られることを明らかにした.
- 2006-03-25
著者
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