日英中間言語における動詞直前に顕在する名詞句の正体について
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概要
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日本語と英語の構造的違いに空主語の容認・非容認がある。時制節において、日本語には主語がなくてもよいが、英語には義務的に存在しなければならない。ミニマリスト・プログラムの枠組みでは、この違いは機能範疇Tに存在するD(または、EPP)素性の強弱の違いによって説明されている。このパラメターの相違にもかかわらず、日本人学習者の英語には、学習初期段階にあってさえも、動詞の前に名詞(句)が存在する。この問題に関する先行研究は、英語の主語の習得は日本人学習者にとってあまり困難ではないという見方を示している(Chaudron & Parker, 1990; Hirakawa, 2003; Wakabayashi, 1997, 2002; Wakabayashi & Negishi, 2003; Zobl, 1990)。本研究では、日本語母語話者による英語の主語の習得は困難を伴うことを実証し、以上の主張に反論する。英語の名詞話題句はθ標示されたものでなくてはならないが、日本語のそれは、θ標示されないものでもよいという特性がある。この特性と主語の有無を組み合わせて4つの構文を作成し、文法性判断テストを実施した。少なくとも英語習熟度初・中級の学習者は、「名詞話題句-主語-動詞」構造を、話題句の標θ示や主語の有無に関わらずすべて容認するという結果がでた。つまり、学習者は英語においても日本語特有の話題化構文が可能であると思っている事実が判明した。このことは、少なくとも中級レベルまでの日英中間言語における動詞直前に顕在する名詞句が、日本語統語上の主語または話題句であることを示唆する(cf. Hawkins, 2001; Kuribara, 2000, 2003)。