自動車整備作業における特許技術解釈についての一考察(III)
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概要
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特許技術は,登録という国家行政庁の行政処分によって,特許権という外形が与えられ,対世的な絶対権の効力の内容となる。その効力の絶対性は,先願主義または登録主義の制度の下で,付与されるものであり,その権利の内容をなす特許技術は,確実性,正当性を前提としている。従って,法条項の形式が内容を決定するものではなく,内容たる特許技術が形式を決定するものである。すなわち,きわめて創造的な判例の集積が,特許法の体系的理論的展開を導いてきたのである。例えば,特許技術をその構成要件に分析するという理論展開は,要部説に対立するが,最近の判決に慣用されるに至っており,特許法の学説,解釈,形式判断の基礎となっている。ことに,戦後,特許庁のした審決に対する訴が東京高裁の専属管轄となり,特許庁のした事実認定の当否が直接に訴訟審理の場で問題とされるようになっている。そのため,単なる法適用の是非を超えて,裁判所の判断すべき対象の範囲が拡大されている。すなわち,法条項の立法趣旨のとおり解決手法として運用されるとは限らず,むしろ立法趣旨からかけ離れた解決理論による場合が多い。それは,特許法という経験科学は,将来を予測しうる自然科学とは,異質の科学領域に属するためである。特許技術の定性性について,判例の立場からその具体的妥当性ある解釈手法を考察し,実証的解釈を試みることは重要かつ不可決である。本報では,第一報で求めたところの整備物が特許物とされる統一的な解釈基準が,判例における解釈手法に援用あるいは適用できるか否か,さらに実体面で特許技術の解釈の妥当性具体性ある基準になるか否かについて考察する。ことに,わが国の特許法は,西独法および米国法と共に先進技術国として,きわめてその理論構成に優れた実定法であるといわれており,本稿はわが国の特許法に基づく技術解釈の構成に限定する。しかし,世界各国の特許法は,工業所有権の保護に関するパリ条約に加盟の下で,他方,手続的内容的にP.C.T条約に加入移行しつゝあり,統一的保護の傾向にある。国情,社会背景,および伝統的社会慣習の相違から,その保護手段に差異はあるが,特許の対象,目的,内容および効果は,きわめて均一性があり類似的である。引用の判例は,米国のゼェネラル・エレクトリック社が,その特許に係る銃火器を米国政府に納入したが,米国海軍がその銃火器をゼェネラル・エレクトリック社に無断で分解整備した。従ってその分解,組立て整備はゼェネラル・エレクトリック社の特許権を侵害するものであるとする,米国政府を対手とする損害賠償請求事件に係るものである。この事例は,きわめて自動車整備作業における特許権侵害行使とされるケースに類似しており,多くの示唆を与える。
- 高山自動車短期大学の論文
- 1983-01-31