生命保険とプライバシー
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概要
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プライバシーという用語は,わが国の法律のなかには無く,かつては「一人にしておいてもらう権利」とか「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」と消極的,受動的に解されることが多かったが,コンピュータ化に伴い,「自己に関する情報の流れをコントロールする個人の権利」として,積極的,能動的に解される傾向が強くなっている。いずれにしても,故意または過失によるプライバシーの侵害や個人情報の不適切な取扱は,原則として民法709条の不法行為になると解されている。ところで,生保事業にとっては,契約者間の公平性を維持し,事業の健全性を図るため有効な危険選択が不可欠であるが,危険選択情報には被保険者の年齢,性別のみならず,健康状態,病歴,モラルリスク情報等プライバシーに係わる個人情報が多く含まれている。そのため,生命保険業界ではこれまでもプライバシー問題に関する世論の動向を視野に入れつつ,顧客のプライバシー侵害を引き起こさないよう法的な措置も含めて種々の対応策を講じてきた。たとえば,契約確認では,契約者等から申込書であらかじめ同意を得ておく他,約款にも支払い時の受忍義務を定めるようにし,さらに医師からの診断書取り寄せ時の契約者等からの承諾書の受領,「調査」と言う用語からの変更等の措置が採られてきた。さらに,コンピュータ化に伴う顧客データの保護に関しても,生命保険協会で生命保険業務の特殊性を考慮した取扱指針を策定し,各社のガイドラインとしている。ところが,今日,成熟化した生保市場において情報活用型経営が指向され,販売の効率化,迅速な査・決定のため大量の顧客データに時間と場所を超えて営業職員を含む多くの従業員が容易にアクセス出来るようになり,顧客のデータ管理,プライバシー保護が一層重要になっている。また,生前給付型保険の増加に伴い,被保険者本人には告知されないガン等の疾患についてのプライバシー保護や,アメリカでは既に深刻な問題になっているAIDSや遺伝子情報と保険加入という極めてセンシティブなプライバシー問題がわが国でも早晩現実の問題になるものと思われる。こうした状況を踏まえて,本稿では(1)プライバシーの権利とはどのような権利か(2)生保業界におけるプライバシー保護問題の経緯(3)生保業界におけるプライバシー保護の新たな課題,についてアメリカの実態についても触れながら述べる。
- 1995-12-15