国民医療と民営保険の将来
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概要
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"思ってもみない事柄"ということの筆頭は,何といっても日本の経済発展とそれに裏打ちされた人類史上空前の高齢化の加速状況であろう。2世紀余りつづいてきた感染症中心型の短期対応を中心とした医療構造は一病息災どころか多症状息災とさえいわれる寿命対応型に急転換をはじめている。敗戦後アメリカから導入された巨大科学あこがれというムードは,病院依存と高度健診要求を助長してしまった。長い間,地味に健康診査を中心に病人ではなく,健康者の寿命を予測し,そのための大変な資料を集積してきた保険医にとって,待ち望んでいたともいってよい医療という概念への発想の転換が始まっている。凡ての人々が莫然と寿命への感慨を持ち始めている時代である。一体いくつ迄生きられるかというより,一体いつ死ぬのか,そしてどんな死を選び迎えられるのかが国民の大多数の考え方であり,かつての受診心理は,死生観を問う形にかわり出している。高齢加速を単なる受診受療の対象としてでなく,かわる社会構造の中での生物学的な見地と,生命観死生観といったより深いものへの展開を期待したい。保険医の世界は,空前の収益にある経営側とは別に医療というもののあり方が,本来保険医が夢見てきた姿と一致しつつある現状の中で,次にくる介護・痴呆更には老若世代差などと言う社会医学の面に飛躍すると共にセルフケアーへの事実を契約者はおろか日本人の凡てに示すべきである。そして,その問題こそが1/4世紀続いてきた日本の治療行為。物中心の公的医療保険をこれからどうもってゆくべきかを考える上での大切な示唆となることは間違いない。民間保険の続出は,結局病院はおろか健康さえも他者委せにしかねない古い医療観のもたらしているものであり,よきにつけあしきにつけて新しい健康観寿命観,更には生命観を問いかけ得るだけの立場に,保険医がいることだけはまちがいがない。
- 1989-12-15
著者
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