高所得経済圏における自動車保有率のパネルデータ統計分析(予報)
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概要
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世界の高所得経済圏において,自動車保有率の縦断的な国際変動に及ぼす要因の影響を,14か国の16年にわたるデータを用いて統計分析した。1人当たりGNI,ガソリン価格,失業率,鉄道輸送密度,都市人口率等を説明変数とする2種類のパネルデータモデルを定式化し,モデルの出来と変数の出来を,回帰分析により検証した。結果を要約すれば次のとおりである。まず,S字関数モデルは,92%以上の適合度に達している。このモデルにおいては,国家ダミー変数と時間変数を除く説明変数のうち,1人当たりGNIが最も説明力のある変数となっている。その回帰係数は,仮説に合致するプラス符号を示す。都市人口率にはやや低い説明力がある。ガソリン価格,失業率,鉄道輸送密度の三つの変数はほとんど回帰に寄与しない。時間変数はプラス効果を与えているが,それは時間的に先細りしており,自動車保有率の増勢が次第に弱まってきたことを示している。また,各国のトレンドがこのモデルからどれだけ乖離するかを表す,国家ダミー変数の回帰係数が得られた。このようにButton et al.(1993)が採用したS字関数モデルは,計量経済学的モデルと比較して一段と高い説明力を有し,将来予測のための有効なモデルであることを改めて思い知らされたが,他方,説明変数の出来を測るには限界があるといわねばならない。次に,計量経済学的モデルは最大でも60%程度の適合度にとどまり,S字関数モデルよりかなり低くなっている。しかし,各変数の説明力を明確に区別している。1人当たりGNIは最も高い説明力があり,回帰係数は仮説に合うプラス符号を示す。所得弾力性(0.21<ε<0.38)は,Johansson and Schipper(1997)による推定値の1/3以下に減少しており,ここから,所得の影響力はこの30年間に低下してきたことがうかがえる。ガソリン価格と鉄道輸送密度も説明力があり,弾力性はともにマイナスである。一方,失業率と都市人口率は説明力のある変数となっていない。要するに,弾力性小であるけれども,1人当たりGNI,ガソリン価格,鉄道輸送密度の3変数はモデルにおいて核変数の役割を果たしている。モデル作成で用いたOLSとGLSの推定結果には,大きな差違がみられない。結果は以上のとおりであるが,データがまだ不足しているし,研究の継続中でもあるので,本報は予報として一応報告するにとどめる。今後は,高所得経済圏19か国の21年にわたるデータが出そろうのを待って,さらには説明変数の幅をもう少し広げて本報と同じ枠組みの分析を行い,明確な結論を引き出したいと考えている。また,一国の自動車保有率に影響を及ぼす要因としては,経済的要因や交通システム要因とともに,国が定める諸制度の役割が重要な意味をもつ。この観点から,制度とその変遷の影響を測定するための,新しい分析の枠組み作りが必要である。
- 2004-03-10
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