ラッセル・バンクス作品研究 : 『サクセス・ストーリー』試論
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概要
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アメリカ文学史上,「サクセス・ストーリー」は決して新しいテーマではないが,作家ラッセル・バンクスは,そこに,新しい解釈を加えて蘇らせた。彼が敏感に「サクセス・ストーリー」に反応した背景には,見えない「階級」の存在があったのである。「階級」差を強いる圧力に対して,労働者階級出身の作者は,この問題を内側から追究していく。物語は,バンクス自身の投影である主人公が,名門大学への入学を果たしながら,短い学生生活を中退で終わらせた傷心の意味を明らかにしていく。バンクスは,平等に与えられるはずの成功への機会から疎外され,敗北者と呼ばれる者たちの繰り返される失敗や挫折の経験を追うが,彼等の恐怖心を誘発し,克服不可能な精神状態に至らしめる過程を追究していく作家の筆致には手堅さが認められるのである。物語の最後に主人公が引き起こした仕事上の大失敗は,彼にとっては癒しがたい恥辱の経験となる。主人公は,この感覚が,敗北感であると受け止め,成功の夢からこぼれ落ちていく多くの男たちの無念の思いに共感覚を分かつ。主人公の若者が,運命の不条理を理解するところから再生へ向う回復力が呼び起されることをバンクスは強調する。バンクスは,あえて,この「階級」という難問題を一人の若者に託し,作家としての人生観を明らかにしようとするのである。
- 2004-03-30
著者
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