Protein tyrosine phosphatase, SAP-1 のヒト肝細胞癌における腫瘍抑制効果
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概要
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SAP-1は細胞質領域に protein tyrosine phosphatase (PTP) ドメインを1つ有し細胞外ドメインに8個のフィブロネクチンタイプIII様構造と多数のN-グリコシレーションサイトを有すヒト膜貫通型のPTPであり, インテグリン媒介シグナリングの負の調節因子として関係する。この脱リン酸化酵素はある種の膵癌細胞株や大腸癌細胞株に高度に発現を認めるが, 正常の膵臓, 大腸組織には発現を認めず, この所見の生理学的意義は不確かである。本研究ではまず, 肝細胞発癌におけるSAP-1の役割を, 外科的切除により得たヒト肝細胞癌組織を用いてその発現について検討した。免疫組織染色とイムノブロット解析により慢性肝炎組織や肝硬変組織で正常肝組織とほぼ同等にSAP-1発現が認められた。高分化肝癌では11例中8例 (72.7%) の肝癌組織において周囲非癌部肝組織に比較し同等ないしやや高度にSAP-1発現を認めた。一方, 中分化肝癌の13例中11例 (84.6%), さらに低分化肝癌6例中全例においてSAP-1発現は周囲非癌部肝組織に比較し低発現であった。さらに興味深いことに低分化肝癌組織では6例中5例 (83.3%) でSAP-1発現をほぼ認めなかった。SAP-1を恒常的に発現するように遺伝子導入された低分化肝細胞癌細胞株HLF及びHLF細胞において形態変化や細胞遊走能の明らかな低下を認めた。以上の結果からSAP-1発現はヒト肝細胞癌の脱分化過程において発現抑制を受けており, この発現抑制は肝癌の進展において非常に重要な役割を担うことが示唆された。
- 2002-03-29