マウス発生過程におけるホスホリパーゼCεの神経系前駆細胞特異的発現
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概要
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ホスホリパーゼC (PLC) によるホスホイノシチド加水分解は, 中枢神経系の細胞内情報伝達経路において主要な役割を果たす。最近我々や他の研究グループによって, 低分子量GTPaseであるRasやRapとの結合により活性が制御される新規のPLC, PLCεが発見された。本研究ではマウス発生過程でのPLCεの発現様式について検討した。まず発現時期について調べたところ, 胎生10日目 (E10) 頃に始まって周産期初期まで続き, それ以後は消退した。次に発現部位を解析したところ, E10〜E11では神経管の神経上皮に, E12以降では発生途上の脳と脊髄の ventricular zone (VZ) や subventricular zone (SVZ) に特異的に強く発現され, 網膜, 嗅上皮, 神経節など神経系の増殖・分化が起こっている部位に発現が見られた。これらは神経系前駆細胞が優位に存在する部位である。E15以降では発生途上の筋組織に, 成体マウスでは主に心臓に発現していたが脳での発現はごくわずかだった。上記の所見と一致して, レチノイン酸 (RA) 処理したヒト奇形腫NTERA-2細胞の神経細胞分化初期にPLCε発現の誘導が一過性に観察され, 分化完了した時点でその発現は消失した。この発現の時間的経過は, ヒト achaete-scute ホモログ1 (hASH1) のそれと同様であった。これらの結果から, PLCεは神経系前駆細胞の増殖・分化に関与していることが示唆された。
- 神戸大学の論文
- 2002-12-25