『承安五節絵』の似絵性について : 住吉内記系の模本による
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概要
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承安元年 (一一七一) の五節行事を描いたという『承安五節絵』は、すでに原本が無く、数度の転写を経たいくつかの模写本によって、辛うじてその図様を伺うしかない。それでもこの絵巻を注目すべき理由は、人物の顔貌が似絵として表された最初期の作品であることにある。本図の似絵性として、顔貌の似絵的表現、人物の大部分に官名と名前、年齢が記され、「人物の相貌に一種の個別性」があること、人物が重なり合わず、後ろ向きの人物も顔が見えるように振り向いて描かれていることが、すでに指摘されている。しかしこれらの言及は情況証拠の域を出ず、具体的な個々の顔貌表現やその相似性に踏み込むものではなかった。『承安五節絵』の大半の模本では顔貌描写のほとんどが省略され、これらの顔貌表現によって原本の似絵性を具体的に確認することは困難とあきらめられていたのである。ところが住吉内記の署名を伴う系統の、東京国立博物館蔵 (甲) 本・東海大学附属図書館桃園文庫蔵本・京都大学附属図書館蔵本・早稲田大学図書館蔵 (乙) 本・小堀旧蔵本の五本は、丁寧に透写されているので、原本の筆勢を偲ばせるには至らぬながらも、個々の人物の顔の輪郭、眉や目鼻立ちの表現には差異が見られる。各人物のこれらの特徴を五模本の間で比較すると、非常に高い割合で一致する。このような顔幅の広さや髭の有無は、明確な形として伝わりやすい特徴であるので、当初からのものであった可能性が高い。そこでこの住吉内記系譜模本の個々の顔貌表現そのものの比較によって、原図の人物が似絵として描かれたか否かをあらためて検証した。
- 2002-03-15