暖温帯落葉広葉樹種のシュートの形成過程について
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概要
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樹木の生活を明らかにするために、シュート(葉のついた枝)の伸長期間や展葉パターンおよび個葉の生存期間などの研究がなされてきた。しかしながら、シュートの形成過程は、樹木の物質生産の場である空間の獲得という点でも重要な意味を持っている。そこで、本研究では、光合成産物という限られた資源を、葉や枝にいかに分配すれば有効な空間を獲得できるかという視点にたって、葉の形態的諸特性やシュート上の葉の分布および分枝などの定量的計測をおこなった。そして、シュートの形態と機能を考えることによって、伸長成長や葉の生存様式のもつ生態的意義について論じた。その結果、以下のことが明らかになった。1.頂芽型でIndeterminant typeのクロモジは、シュートの基部に葉を集中させる。これは、成長初期にまず貯蔵物質を用いて葉を展開させ、その後、これらの葉による光合成産物をもとに枝を伸長させていることを意味している。この成長様式は、当年の生育環境の変化にすばやく対応して成長後期の伸長量や展葉数を調節できる可塑的なものといえる。2.同じ頂芽型でも、Determinant typeのコナラは、シュートの先端部に大型葉を集中させている。これは、限られた資源で新しい空間を獲得することができる形態であり、林内での他種との競争力という点では優れている。その反面、枝を伸長させた後に展葉するため、その年の成長が貯蔵物質に依存し、明るい光環境での成長には不向きな形態といえる。3.林縁部や林内のギャップなど、比較的明るい環境を生育地としているウワミズザクラは、仮頂芽型でInterminant typeの伸長・展葉を示し、伸長するにつれ、次第に大型の葉を展開していく。伸長・展葉の特性は、貯蔵物質と当年の光合成産物に依存した空間獲得をおこなっていることを示唆している。4.仮頂芽型でDeterminant typeのナツハゼではウワミズザクラと類似した形態を示すが、伸長・展葉期間は短く、より貯蔵物質に依存した、前年の光環境によって大きく規定された成長様式と考えられた。
- 2002-03-25