邦文特殊経済雑誌と中国近代史研究 : 『養鶏』(1929〜1941年)の場合
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概要
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製糸業や綿業など,特定の産業の動向を専門的に扱った戦前期刊行の邦文経済雑誌は,近代中国経済史研究の有効な史料としてこれまでしばしば注目されてきた.また近年,戦前期刊行の理系の領域に属する邦文雑誌が,中国近代史研究の進展を大きく後押ししうることが指摘されている.そうした動向を踏まえ本稿は,近年蓄積が進む近代中国の鶏卵と鶏卵加工品の輸出貿易に関する研究において,戦前期刊行の養鶏業を主題とした邦文雑誌が何らかの有効性を持つのか否かについて,日本政府との関わりが深い社団法人が1929〜1941年に刊行した雑誌である『養鶏』を題材に,初歩的な検討を行った.そして,以下の6つの事柄を知りうる記事が注目されることを指摘した.(1)中国産鶏卵は,輸出統計表においては「鮮蛋(Fresh Eggs)」として一括されるが,形質的特徴は多様であり,また仕向先により輸送法も異なっていた,(2)伝統的製法を用いる乾燥卵製造工場の実態はどうであったのか,(3)20世紀前半の世界の鶏卵貿易網はどうであったのか,(4)欧米の鶏卵消費に占める中国産品の位置はどうであったのか,(5)中国で養鶏業の改良が進むきっかけとなった1920〜30年代の欧米における養鶏業の発展の実態はどうであったのか,(6)近代日本にとって,中国産の鶏卵に加え鶏卵加工品も一定の重要性を持っていた.検討を加えた記事には,著者の身分や叙述の典拠が不確かなものもあり,記事の内容を無批判に受け入れることは慎まねばならない.ただ,『養鶏』が,近代中国の鶏卵と鶏卵加工品の輸出に関する実態解明を進める上で一定の有効性を持つことは確かである.今後,記事作成者の社会的背景についての踏み込んだ分析のほか,畜産業に関する雑誌全般について,中国近代史研究への利用の可能性を探っていく必要がある.
- 2005-09-30
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